詩の森文庫/田村隆一
昨年末、思潮社から「詩の森文庫」という新書スタイルのシリーズが創刊されました。発行日は元旦の日付ですが、年内に書店に出回っていました。見つけたのは、郊外のローカル駅の、駅ビル内のさほど大きくない書店で、そんなところに思潮社の本が並んでいたのでびっくりしたのでした。
ブルー基調の表紙の「クリティック」シリーズと、カッパー色の「エッセー」シリーズ、それぞれ5冊ずつ計10冊が第一回配本で発刊。グリーン表紙の「ポエム」も発刊予定のようです。
いま「詩の森文庫」で検索したら、すでにあっちこっちのブログや何かで言及されていて、なかなかの反響のようです。(ところで、トラックバックってどうすればいいの? またどういう時にするものなの?)
数年前からの第二次新書ブームとはいえ、よもやこのような新書が創刊されるとは。いささか遅いような気もしますが、あまり色気を出さずに、「現代詩文庫」のように細くても末永く続刊されることを期待します。
で、さっそく買ってみたわけですが、私が最初に手にしたのは、田村隆一の『自伝からはじまる70章』です。現代詩人の中では私が最も敬愛する詩人で、多少なりとも縁がないわけでもないので。ちょっと立ち読みしていたら、その接点である(といっても一方的なものですが)、神保町の「ラドリオ」のことも書かれていたので、すぐさま購った次第。
しかし一番食指が動いたのは、1章がそれぞれ原稿用紙3枚ほどで書かれている点。これは単に雑誌連載の要請によるものですが、短説の何かヒントにならないかと。
自叙伝からはじまって、やがて自由な発想で、連想式にまた断片的にあるいは飛躍しながら、勝手気ままに書いていく。そんなスタイル。
一応解説めいた情報を書いておくと、ダイヤモンド社の月刊ビジネス誌「エグゼクティブ」の1992年5月号から、亡くなる直前まで70回にわたって連載された、詩人最晩年の貴重なエッセイ集。連載時は、本新書の副題にもなっている「大切なことはすべて酒場から学んだ」というタイトル。
全編、田村節全開です。私は全くの下戸で、酒の味を解せない無粋な男ですから、酒の話になると着いていけないのですが、まあこういうのを読むと、酒が飲めたらずいぶん違った世間が見えてくるんだろうなと思う。私などはとても田村隆一には弟子入りできない。田村さん、不肖の後輩で面目ありません。
素足に革靴、トレンチコートをはだけて「ラドリオ」の止まり木に坐っていた(というより、かろうじて支えられていた)あの日の田村さん。そのすぐ背中で、臆面もなく現代詩のことを話していた僕ら。まったく赤面ものです。たぶん、僕らの話が耳に入っていたのでしょうね。「諸君、グッナイッ!」と一言言って、はす向かいの「兵六」に去っていった田村さん。……
65章に曰く。
「四十歳までに、詩を書き、この世を去らなければ『天才』ではない。四十歳をすぎたら、命の果てるまで、つまり、酒が飲めなくなるまで、詩を書きつづけなければならない。しかし、『人間の世紀末』に立ち会わざるをえないぼくは、『詩とは何か?』と自らに問わざるをえない」
そう、これは短説にも小説にも、いや、あらゆる芸術に言えることだ。駒田信二はこう言う。「書きつづけて死ねばいいんです」と。
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