« 短説:作品「おんぶ行者」(芦原修二) | トップページ | 『夭折の歌人 中城ふみ子』(中島美千代) »

2005年1月20日 (木)

短説:作品「トロッコ」(すだとしお)

   トロッコ
 
           
すだ としお
 
 細かい氷の粒が、降り続けていた。凍りつ
いた崖に囲まれた窪み、坑夫たちの掘建小屋
が、ひっそりと並んでいる。崖には、いくつ
もの坑道が口を開け、トロッコの線路が入り
込んでいた。
 坑道から、トロッコが一台、押し出されて
きた。坑夫たちは、笑いもせず、声も上げな
い。坑夫たちは、氷の粒を痛そうに受けて、
顔を歪めるが、トロッコに積んである、崖の
中から掘ってきた透明な空気のかたまりを手
と頬で温めはじめる。凍りついた空気は、坑
夫たちの温もりで、キラキラと一瞬光ってか
ら、とけていった。
 掘ってきた空気がなくなると、坑夫たちが、
眠りにつくために小屋へと、よろけながら歩
いていった。一眠りすれば、また坑道へ入っ
ていかなければならない。息をすることも苦
しい。凍ってしまった空、凍ってしまった空
気。いつか、空が晴れると信じて、空気をと
かしつづけているのだった。
 別の坑道から、別のトロッコが、出てきた。
一人の坑夫が、トロッコからこぼれ落ちるよ
うに、飛びおりて、叫んだ。
「こんなに温ったかい空気が吹き出してきた
よ。みんな嬉しくないのかい? ほら、空が
青く輝きはじめたよ」
 また一人耐えられなくなった坑夫が出トし
まった。
 坑夫たちが取りかこんで、その坑夫の体を
ゆすり、こすった。そして、耳のそばで大声
を上げた。掘建小屋からも坑夫たちが、つぎ
つぎに出てきた。
 降ってくる氷の粒が、集まった坑夫たちの
温もりでとけ、蒸気となった。しかし、耐え
られなくなってしまった坑夫は、目を閉じ、
冷たくなっていった。

〔発表・初出:「短説」1989年4月号/初刊:すだとしお短説集『やわらかい鉛筆』1995年3月/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.9.16〕
Copyright (C) 1989-2005 SUDA Toshio. All rights reserved.

|

« 短説:作品「おんぶ行者」(芦原修二) | トップページ | 『夭折の歌人 中城ふみ子』(中島美千代) »

短説〈同人会員作品〉」カテゴリの記事

短説集1985〜1990」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 短説:作品「トロッコ」(すだとしお):

« 短説:作品「おんぶ行者」(芦原修二) | トップページ | 『夭折の歌人 中城ふみ子』(中島美千代) »