短説:作品「行く末」(西山正義)
行く末 西山 正義 わが家の長男は、まだ海のものとも山のも のとも知れない。五歳の幼稚園児なのだから 当然といえば当然である。私にしても、この 期に及んでまだ自分自身の可能性に未練があ るので、息子に夢を託すつもりはない。 ところで、わが家の当主はあまりいい血筋 を受け継いでいるとはいえない。どうやら代 々勤め人には向いていないようなのだ。 祖父は赤穂の出。家紋は丸に違い鷹の羽で あるから、あの浅野家と同じだが、赤穂浪士 とは特に関係ないだろう。関西電力の技師と して中部山岳地帯のダム工事に携わっていた のが、そのまま木曽に住みつき、いわゆる脱 サラして小さな材木工場を始めた。頑固者の 祖父。祖母はずいぶん苦労したようである。 一人息子の父は、しかし工場を継がずに東 京へ出た。大学を出て、最初に就職した証券 会社を上司と喧嘩して辞めたのをかわきりに、 その後も転職を繰り返し、友人と商社のよう なものを作ったこともある。作ったこともあ るということは、潰したこともあるというこ とで、以後も、土地建物取引主任者として、 フリーでいくつかの会社を渡り歩いてきた。 次男で本家を出た祖父を初代とすると、私 は三代目。どういう因縁か、私も同じような 道を歩んでいるのだが、これに母方の祖父の 血、即ち文学だの芸術だのというのが入って しまって、どうにも始末に追えない。 さて息子はどうか。誰に似たとしても……。 だが救いはある。母方の系統。つまり私の妻 の父もしくは祖父。わが家とは対照的に、二 人とも公務員を全うしている。しかし、息子 はこの二人に接したことがないし、お堅い家 柄に反撥して、家を飛び出したような母親の 影響力の方が強いかもしれない。いずれにし ろ、最後はやはり息子の伴侶次第だろう。 〔発表:2000年6月第75回東葛座会/初出:「西向の山」upload2005.2.15〕 Copyright (C) 2000-2005 NISHIYAMA Masayoshi.
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