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2005年3月10日 (木)

短説:作品「ホメオスターシス」(森林敦子)

   ホメオスターシス
 
            
森林 敦子
 
 草息で溢れ返っている葉陰のあちこちから
ひたすら食べている音が聞こえる。時折風が
入るとそのリズミカルな音に変化が起こる。
「さっきから見ていたんだけどあなたってダ
サイわね。大きな頭に短い手足、極端に寸胴
で、おまけにその服の色。緑だけじゃ目だち
ようがないわね」
「えっ」見上げるとカラフルなコートを着込
んでいる気位の高そうな目が見下ろしていた。
言われたとおりなので何も言えずに側を通り
すぎる。後から声が追いかけてきた。「それ
以上食べると着られる服がなくなるわよ」
 しかしやはり食べ続けた。無性に食べたい。
しばらくすると今までの食欲が嘘のように消
えて今度は、眠気が襲ってきた。体が重く、
手足を動かすのがやっとだ。何処かに眠れる
場所を捜さなければ。
 どのくらい寝たのだろう。背伸びをする。
まだまだ延び切らない気持ちに駆られて空気
を身いっぱいに吸い込んで全身に送る。繰り
返し繰り返し背伸びをしていると体が軽くな
って浮き上がれるように感じた。驚いたこと
にほんとうに浮いている。あわてて葉にしが
みつく。自分の身に何が起こったのか。気が
動転したが、恐る恐る自分の姿に目をやると
手足がすらりと延び、ウエストがしまってい
る。更にあんなに憧れていた羽までついてい
る。それも模様つきの。
 葉の下で何かが動いている。一匹の蛹が必
死で殻を脱ごうとしている。息を深く吸い込
んで大きく背伸びをしたかと思うと出てきた
羽をひろげた。見たことのあるカラフルな模
様。バタバタと無器用に動かした。目と目が
会うと驚いた様子で慌てて日陰に逃げ込んで
しまった。
 私は日に向かって飛び出した。

〔初出:年鑑短説集(4)『海の雫』1990年12月/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.1.1〕
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