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2005年4月20日 (水)

短説:作品「生け花」(喜多村蔦枝)

   生け花
 
           
喜多村 蔦枝
 
 数室は、木を切るハサミの音がするだけで
ある。桃の節句が近づいている。今日の花材
は白桃と緋桃に菜の花、アイリスである。
「男雛と女雛をイメージしてください。女が
強い時代ですから、女雛の方に男雛が幾分寄
り添うように生けてもおもしろいですね」
 先生は冗談まじりにそう言った。
 枝をたわめる。水盤の中の世界が広がる。
梅は武家の娘のように、でも桃は町娘のよう
に生けるという。そうは言ってもなあ、まま
ならないと思いながら良子はハサミを入れる。
元気な町娘だ。緋色の幹は太いし枝も多い。
それに比べ白桃は細く貧弱な蕾の数。どうや
らまとまった。これでいい。我が理想とする
男女同権だ。でもちょっとノミの夫婦かな。
「お願いします」
 先生はじっと眺める。バランスは取れてい
ますが、器の中央で寄り添っているから面白
みがないという。崩してみましょうと手直し
をしている。
「どうかしら」
「直していただいたのは、なんだか……どう
も……逃げる男に追う女のイメージがして」
 教室内がどっと笑った。真剣に生けている
のか、それとも私の言葉を聞きながらのんび
り生けているのかと良子は思った。
「あらそう、じゃあ受け止める男にしましょ」
 先生はハサミを入れ、白い枝を一本加えた。
その根元に菜の花、そして側にアイリスを真
っすぐ立たせた。それが男性のシンボルか、
男前の白桃。なるほど。
 自宅で良子は教わった通りに生け直した。
玄関である。真っ正面。扉を開ければ一番最
初に否応無く目に入る位置だ。来客が言った。
「まあ、花で雛を表すのもようございますね。
頼る奥方、戸惑う殿方って感じですわね」

〔発表:2001年4月東京座会/初出:「短説」2001年7月号/ 再録:「短説」2002年5月号〈年鑑特集号〉*2001年の代表作選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.3.20〕
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