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2005年5月 8日 (日)

短説:作品「順番」(吉田龍星)

   順 番
 
            
吉田 龍星
 
「受付待ちだね。あっちへ詰めて座って」
 守衛は男に近づいて来て言った。指差され
た方を見ると、皆、前列から順序よく並んで
座っている。椅子は一列あたり二十四。男は
二列目の二番だった。薄暗いホールの中で天
井から吊された明かりが二つ。ダクトから風
が漏れて来るのか、微妙に揺れている。
「五番か六番だと思ったのにな…」
 男は呟きながら前の列を見た。斜め後ろか
らそれぞれ顔が見える。腕組みをしながら暗
い天を見つめている痩せた中年男が一番だ。
二番目は文庫本に見入る女。三番目は目を瞑
って小さくなっている老女だ。どれぐらい前
からあそこに座っているのだろう。
「三十分、それとも一時間?」
 男は暇潰しに四番目以降も見ていった。雑
誌や新聞に目を通す人。何かの入門書を見な
がらメモ帳にペンで書き込む人。恐らく手を
暖めているのだろう、紙コップの飲み物を両
手で大事そうに包む人。そして口を閉じたま
ま手を合わせ何かを唱える人。不思議な事に、
隣同士で話を始める様子は全く見られない。
知り合いでなくとも、緊張を和らげようとし
て周りに話しかけ人は、いるものであるが。
「競争相手だから? 自己開示が嫌なのか」
 目指している場所は何処だろうか。男は思
った。自分の他に何人いるだろう。三人、或
いは四人。ひょっとしたら三分の一以上かも
知れない。隣で新聞を小さくたたみながら読
んでいる中年男が敵に思えて来た。
「こいつの方が俺より先に行くのか…」
 男は自分の顔が強張って行くのを感じ、コ
ートの衿を立てた。静かに音楽が鳴る。アナ
ウンスが流れた。
「ただいまから受付を開始いたします」
 みんな一斉に、立ち上がった。

〔発表・2005年1月藤代日曜座会/初出・「短説」2005年4月号/短説[tansetsu]ブログupload2005.5.8〕
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コメント

今年1月の藤代日曜座会で発表され、月刊『短説』4月号に掲載されたばかりの新作短説を、公式サイトに先立ちこのブログでご紹介します。

投稿: 〈短説の会〉公式サイト編集人 | 2005年5月 9日 (月) 00:00

トラックバック、ありがとうございます。
「月刊 短説」4月号の座会要約にもどなたか書かれていたと思いますが、やはり、何の順番待ちか分からないところが面白いですね。それでいて読者を引っ張る力量が凄いです。

投稿: 本読人 | 2005年5月 9日 (月) 20:48

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   道 程               吉田 龍星    声が響いている。 〈飛ぶ方が楽だよ。ずっと広い世界が見える〉  昨日の汚れ物、今朝のゴミ。そして今日の 午後以降使うかもしれない品々をごちゃ混ぜ に背負って、男は歩いている。 〈ゴミは捨てなよ。何の値打ちもない〉  男もそう思っていた。が、ゴミも背負った ままだ。お陰で荷物は増え続け背中に膨らん で掻くことさえ出来ない。傘も出せないから... [続きを読む]

受信: 2006年3月20日 (月) 17:45

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