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2005年5月21日 (土)

短説:作品「三三九度」(川上進也)

   三三九度
 
            
川上 進也
 
「修平さん、今だから言うけど、私、子供の
頃、あなたのお嫁さんになりたかったの」
 幹事の道子が修平に酒を注ぎながら言った。
もう、目元がほんのりと赤い。浴衣姿の指に
は、大きなダイヤが光っている。
「えっ、ホント? 知らなかったよ。惜しい
ことしたな。これからでも遅くないけど…」
「そんなこと言って、奥さんに叱られるわ。
ところで、お孫さんはもう大きいんでしょ」
「いや、まだ幼稚園。来年、小学校の入学」
「あら、そう。うちは一番上が、もう高校生
なの。お互いに年取ったものね」
 中学時代の五十年ぶりのクラス会も、宴会
は九時に終った。そのあと、幹事が用意した
二次会の部屋に十数人が集まった。修平もこ
の筑波ホテルに東京から参加していた。
 道子は頭もよく、女性では常に一番だった
が、家庭の事情で高校には進学しなかった。
 四年後のお盆に修平が帰省した時、道子が
村内の農家に嫁いだ話を聞いた。十九才の道
子の結婚は、労働力のためとか、玉の輿だと
噂されたと言う。何年かして、道子の婚家は、
開発ブームに乗って土地成金になったらしい。
「修平さんも年金貰ってるんでしょ。私もね、
最近は主人と二人でよく旅行に出掛けるの。
年金はその費用と、それに孫の小遣いよ」
「羨ましいね。俺の年金なんか、そのまんま
生活費だよ。そんなことより、ミッちゃん。
いま思うと、実は俺も君が好きだったんだ」
「嘘ばっかり…。中学校卒業以来、それっき
りじゃない。修平さん、私を貰ってくれた?」
「俺も十九じゃあ、無理だったさ。でも君の
結婚を聞いた時、本当はがっかりしたんだ」
「そうだったの、それ聞いて嬉しいわ。じゃ、
ここで三三九度しましょう。昔のつもりで」
 道子は、修平の盃にまた酒を注いだ。

〔発表:1999年8月東葛座会/初出:「短説」1999年11月号/ 再録:「短説」2000年5月号〈年鑑特集号〉*1999年の代表作選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2003.12.19〕
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