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2005年6月10日 (金)

短説:作品「山吹の花」(芦原修二)

   山吹の花
 
            
芦原 修二
 
 この花をどうみるだろうか。
 そう思いながら壷いっぱいに活けた花をも
う一度まわりから見直した。
 先刻、桜桃の枝下を通って切ってきた満開
の山吹である。二、三百本ほどの枝を腕に抱
えて戻りながらふと見上げたら、桜桃はもう
小指の先ほどに緑の実をふくらませていた。
その実の先では、若い葉が広がり、これも勢
いよく数をふやしている。
 
 山吹の株は、常陸の国府跡からも見えた龍
神山で抜いてきた。むかし、この国府につと
めていた役人達もあの山に登ったに違いない。
そう思ったら急に登りたくなったのだ。
 近くで遊んでいた少年に道をきくと、あの
山はいま採石のために、真ん中が割り削られ
て二つになっている。その崖からの眺めが怖
いようで面白いという。そして「案内しても
いい」と、三人の中学生が同行してくれた。
 その帰りに抜いてきた。三本ほど抜いて、
その内の二本が活着し、いまは大きな株にな
った。満開の枝を二百本は切っただろう。そ
れでも、枝を切ったと判らない程、いまは大
きな株になった。その山吹を古い壷にほとん
どそのまま投げ入れた。いや、そう見えるよ
うに活けた。
 それを洋問の真ん中に置いた。
 庭には古くから八重咲きの山吹があったが、
あの時、龍神山で一重の山吹を見てからとい
うもの、八重咲きの花を忘れている。
 一重五弁の黄色い花が満開だ。
 
 水壷のまわりに落ちた小枝や花びらもひろ
って、すべてが整った。まだ少しの時問があ
る。そう思って新聞を広げ、記事を数行読み
はじめた時、玄関に人の声があった。

〔発表:平成16(2004)年4月東京・東葛座会/初出:「短説」2004年7月号/再録:「短説」2005年5月号〈年鑑特集号〉*2004年の代表作「天」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.6.10〕

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コメント

山吹の花言葉は「待ち焦がれて」だそうです。

投稿: 西山正義 | 2005年6月10日 (金) 22:20

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