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2005年7月 5日 (火)

短説:作品「ミミズ」(関口十至)

   ミミズ
 
            
関口 十至
 
「父ちゃん。焼きそば、うまかったな」
 夜店で買った焼きそばを、二人で立ち食い
しながら、幼児らの引く山車を、箸を止めて
見たりした。
 焼きそばの代金を払うとき、財布の中には
数枚の千円札しか無かったのを、目ざとく見
ぬいた俊樹が、親を気使って出な言葉だろう
と、和雄はいじらしく思った。
 祭りの帰り道、和雄の運転する白転車の荷
台から話しかける俊樹は、小学四年生である。
「今度、鰻丼を御馳走するぞ。なあ俊樹」
 仕事をしていない和雄の、精一杯の虚勢に、
「ラーメンでいいよ、父ちゃんと祭りに来ら
れるだけで、僕はいいんだ」
 和雄の家は、祭りの行われた市街地から、
水田を隔てて四キロ程南の集落にある。
 和雄も子供のころ、友人と連れ立って、こ
の道を徒歩で祭り見学に行った。
 その頃は、螢が舞っていた。
「いい仕事見つけて、自転車買ってやろう」
 会社は経営者の怠慢で倒産したが、経営者
は、今でも賛沢な暮らしをしているようだ。
「長い間働いて呉れたので、ゆっくり休んで
貰おうねって、かあちゃん言ってたよ。だか
ら急がなくていいよ」
 和雄は言葉に詰まった。
「父ちゃん。ミミズの鳴き声知ってる」
「いや」
「欲の深い人は、死んだ後ミミズに生まれ変
わり、食い物が心配で心配で、毎晩鳴き続け
るんだって、満願寺の住職が言ってたよ」
 和雄は耳をすました。
 遠くから、そして近くから、ミミズの鳴き
声が聞こえてきた。
(この土食ったら何食うべ)
(この土食ったら何食うべ)

〔発表:平成12(2000)年8月藤代木曜座会/初出:「短説」2000年10月号/再録:「短説」2001年5月号〈年鑑特集号〉*2000年の代表作「人」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2003.12.19〕
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