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2005年8月 5日 (金)

短説:作品「あの日 あの曲」(西山正義)

   あの日 あの曲
 
            
西山 正義
 
 アーケード街を歩いていると、CDショッ
プから懐かしい曲が流れてきた。僕はふいを
衝かれ、次の瞬間足は完全に止まっていた。
こんな気持ちは何年振りだろう。僕の胸は締
めつけられ、涙まで出てきそうになった。
 あの日。あの夏の日。そう、すべてが輝い
ていた。最高の彼女と青い海。白い浜辺にビ
ーチ・パラソル。ホテルのベッドでやるシャ
ンパン。他には何もいらなかった。
 君はキャンパス中の憧れ、というか注目の
的だったんだよ。コンパニオンをやってたろ。
君の美女ぶりは学生離れしていたし、テレビ
に出ていたとかいろいろ噂が絶えなかった。
 僕がどうして君のハートを射止め、そして
別れてしまったのか、今ではもう思い出せな
い。でもその年の夏、僕らは大学三年生で、
ほとんど完璧な恋人同士だった。毎日のよう
に海に行っては、火照った身体を合わせて倦
むことがなかった。長い髪をなびかせて海辺
を走る姿は、そのまま化粧品かビールのCF
になりそうだった。大胆な水着、申し訳程度
に隠された白い領域は僕のものだった。僕は
少し赤く腫れたビキニのあとを撫ぜるのが好
きで、君はそのたびにくすぐったいと言いな
がら身をくねらせた。
 親父のセダンを拝借して、第三京浜や東金
道路を突っ走ったね。カーステレオからはい
つもこの曲が流れていた。憶えているだろ?
 あれから君はどうしたのだろう。結婚した
ろうか。子供がいたっておかしくない。僕は
……ご覧の通りさ。親父や兄貴たちの世代と
は違う生き方をしようと思ってきたけど、今
の若い奴らから見れば、みな一緒さ。
 本当に君は今どうしているのでしょう。今
も輝いていますか。もうすべては終わってし
まったことなのでしょうか。

〔発表:平成7(1995)年8月第18回東葛座会/初出:1995年11月号「短説」/再録:1995年12月23日「新いばらき」第14127号/再録:「西向の山」upload:2002.4.5〕
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