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2005年9月21日 (水)

短説:作品「握手」(安村兆仙)

   握 手
 
            
安村 兆仙
 
 送られてきた同窓会名簿を眺めていた私は
あっと声をあげた。
 かねて消息不明だった子の名前をみつけた
からだ。小学校で机を並べていた子である。
クラスで一番小さくて賢くて可愛らしい女の
子だった。私にはそう見えた。
 だが三年になると、男女別々のクラスに分
けられてしまう。
 二年の終り頃帰り道で彼女に出会った。
「もうすぐ別の組になるね。お別れの握手を
しよう」
 彼女の手は、小さくて柔らかくて温かかっ
た。その後クラスは別れても、学校で彼女の
姿はすぐ目についた。これは初恋だったのだ
ろう。住所が分かったので、思い切って電話
をしてみた。
「一年のとき隣に座っていた者です。永い間
探していたんですよ。同窓会でお会いしたい
ですね」
 しかし五十年ぶりに会った彼女に当時の面
影は無かった。歳月は予想以上の変化をもた
らしていた。
 彼女の家は意外にも近くであった。
「これからは気楽にお会いできますね」
 しかし私はあまり気が進まなかった。
 それほど彼女の変わりかたがおおきかった
のである。その年の秋、祭りがあった。
 お互いに孫をつれて参加した。
 私の孫は男、彼女の孫は女の子だった。
 お孫さんを見て私はびっくりした。
 五十年前の彼女にそっくりだったからであ
る。タイムスリツプしたみたいでみとれてい
た。おもわず言った。
「握手してちょうだい」
 小さい手だった。小さくて柔らかくて温か
いあの時の手がそこにあった。

〔発表:平成12(2000)年8月関西座会/初出:「短説」2000年10月号/再録:「短説」2001年5月号〈年鑑特集号〉*2000年の代表作選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.5.6〕
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