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2005年10月10日 (月)

短説:作品「鏡」(宮禮子)

   
 
             
宮 禮子
 
「この鏡、自惚れ鏡でね、色白に見えるんだ
よ」
 鏡台の前で髪を結いながら母はいった。母
は時々そういう。自分の色黒を気にしている
のか――また、母は「和子、この鏡はね、い
い鏡なんだよ」と、鏡に指を押しあてた。
「指が少し離れてうつるだろう。これは鏡が
厚く上等なんだよ」
 この鏡台は母が自分で買ったのか、母親が
用意してくれたのか知らないが、五人兄弟の
末っ子だった母が結婚する前に父親は亡くな
っていた。その父親は腕のいい建具職人だっ
たそうだから、鏡の見分け方も教えられたの
だろう。
 小学生だった和子には、鏡にうつる自分が
ほんとうでないことを知りながら、それでも
うれしそうな母が不思議だった。
 
 新しい家の洗面所には大きな鏡がはめ込ま
れていた。鏡の両脇は物入れになっていて、
扉も鏡だった。営業マンは「三面鏡になりま
すよ」といったが、使いにくかった。
 和子が結婚する時、母が三面鏡を買ってく
れた。その三面鏡は幾度かの引越や、こども
が物をぶつけて鏡が割れてしまったので処分
した。目常の身繕いは洗面所で充分だ。
 唯、和服を着る時、姿見が欲しかった。
 家具屋で姿見を見ていると、店員がそばに
来ていった。
「この品はデパートやブティックにも納めら
れているんです」
 背丈程の高さでキャスターがついている。
「全身がすっきり見えるんです」
「……」
 和子は角度をかえるふりをして、鏡に指を
あててみた。

〔発表:平成16(2004)年4月上尾座会/初出:「短説」2004年7月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.8.25〕
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