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2005年11月12日 (土)

短説:作品「仙台のお姉ちゃん」(向山葉子)

   仙台のお姉ちゃん
 
            
向山 葉子
 
『マヤちゃん、な、マヤちゃんでば』
 呼ばれた気がして、部屋の中を見回した。
ヨシトは階下のトイレでウンチの最中のはず。
母が呼んだのかと階段の下を見てみるが、包
丁の音がしているだけ。ちょっと怖くなった
ので、降りていこうとする。
『マヤちゃんでば。私だ。せっかぐ待ってた
ったのに、冷てんでねの』
 振り向くと部屋の真ん中に、自分より二つ
ばかり年上らしい少女が座っている。なあん
だ。お姉ちゃんか。知らない子のはずなのに
なぜか知ってる顔なのだ。
『この家、だあれもいなぐなってさ。しかた
ねがら、私が守ってんだっちゃ。あんた達だ
って、夏にしか来ねしな』        
「ごめんね。バァバ、もう動けないし。私も
学校、色々と忙しいのよ。夏休みの宿題だっ
ていっぱいあんの」
『そら、大変だな。気楽だよー、ワラシ生活
は。隣も空き家だし、あっち向かいも留守だ
しな。ワラシ同士でいっつも遊んでんだ』
「いいな。私もワラシになりたいよ」
『だめだー。ワラシは、なんねばなんね運の
子供したなれねんだもの。あんたはちゃんと
おっきくなねばな』
「おねーちゃーん」トイレからヨシトのけた
たましい声。ウンチ終了。
「拭いてやらなきゃ。手のかかる弟だよ」
『あんただってそうだったよ。まだバァバ元
気で、こごさ戻ってきてもさ。お母さん、夜
寝らんねくれ泣いで。私が時々あばばしたっ
たの』
「ずっといたね、お姉ちゃん。ここに。どし
て忘れてるんだろ。夏に来ると思い出すのに」
『それはさ。あんたのほんとのお姉ちゃんに
なれねがったからさ』

〔発表・初出:平成12(2000)年6月・「日&月」第8号/WEB版初公開〕
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コメント

今、若い人達の間では、方言ブームなのだそうです。葉子さんの方言短説は、旬なのかもしれません。
これ、好きな作品です。

投稿: 五十嵐正人 | 2005年11月16日 (水) 02:04

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