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2005年11月26日 (土)

短説:作品「戒め」(新井幸美)

   戒 め
 
            
新井 幸美
 
「A高校合格で、先生もびっくりしていたで
しょう? 何人受験したの?」
「男四人、女一人」
「そのうち何人受かったの? 落ちた人はい
なかったの?」
「一人落ちたよ」
 
「誰なのその子」
「……」
「四郎のクラスの子? お友達なの?」
「……」
 母、美樹の立て続けの質問に四郎の頭が次
第に下がり、口を固く閉ざしている。
 朝食のパンを持った手が動かなくなった。
 頭を上げた。目が鋭くなっている。
「………」
「え、なに?」
「人には聞かれたくないことがあるって言う
ことが分からないの?」
「何を怒ってるの?」
「俺を育てたお母ちゃんのせいだ」
 
 美樹は首を傾げた。
「学校で友達にいろいろ質問して嫌がられる
事があるんだよ」
「どうしてお母ちやんのせいだというの? 
どうして相手があんたの質問が嫌だと感じる
わけ?」
「相手の表情を見れば分かるだろ。お母ちゃ
んはいつも俺がいやがる質問をするだろ。そ
れが遺伝したんだよ」
 四郎の言葉がふるえている。
「ごめん、言いたくない時は言わなくていい
よ」
 
 美樹はそっと台所に移動した。

〔発表:平成14(2002)年3月藤代日曜座会/初出:「短説」2002年4月号(*フランス語訳併載)/再録:「短説」2003年5月号〈年鑑特集号〉*2002年の代表作「人」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2003.12.19〕
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