短説:作品「丸い男」(芦原修二)
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丸い男 芦原 修二 「目をつむって、手を出しておくれ」 と、笑いながら啓那が言った。啓那は両手 を後ろにまわし、何かをかくし持っている。 この少年がたくらんでいるいたずらはなん だろうか。いちおうは用心しながら、山次郎 は目をつぶった。 自分に渡して驚かそうとしているそのもの を、いま現に啓那が手に持っているのだ。そ れを山次郎が手にしてたとえ驚くことがあっ たとしても、けっして危険なものではないの だろう。そう判断し、山次郎は、目をつむっ たまま右手を前にさし出した。 その手に啓那が丸いものを載せる。ずっし りと重い。山次郎はもっと軽いものを無意識 に予測していたようだ。あやうく落としそう になって、両手で支えた。 目をあけて見ると、それは白い球体の大理 石像であった。 日本の力士を思わせるやわらかく太った体 を丸め男が団子状になっている。全裸だが両 手で頭を抱えこんでいる。そのため頭頂や首 筋そして背中は見えるが顔は見えない。 「ほら、こうやって見てごらんよ」 啓那が、手をのばし、球状の彫刻を取り戻 す。そして肘と脇腹と太股の問にできたかす かなすきまから、中を覗き込んだ。 「何が見えるのかね」 山次郎が尋ねた。啓那はただ笑っている。 そこで山次郎は手を伸ばし、啓那から丸い男 の像を横取りした。いわれたように覗くと大 理石を透して入り込んでくる光の中で、男は いまにも男根をくわえようとしていた。いっ たいどこから彫刻刀を入れて彫り上げたのか。 「ね、かわいいでしょう」 啓那が手を伸ばし、ふたたびその男の像を 山次郎から取り返そうとした。 〔発表:平成15(2003)年5月東京(同人合同)座会/初出:「短説」2003年8月号/再録:「短説」2004年5月号〈年鑑特集号〉*2003年の代表作「我」位選出作品/WEB版初公開〕
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