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2005年12月 5日 (月)

短説:作品「子供のいる家」(綾部有時)

   子供のいる家
 
            
綾部 有時
 
 インターホンを押す指がふるえる。用意し
てきた言葉が、頭のなかで渦を巻く。
「……あの、すみません。届けにきました」
 若い女がドアをあけた。
「あの……、お宅の窓の下に落ちてたんです」
「……子供に聞いてきます」
 手渡したポケモン・カードは、菓子袋につ
いてきたオマケで、実は私が買った。
 女が入っていった引き戸の部屋に、男の子
はいるのか? すぐに閉められた白い戸の奥
からは、何の音もしない。ここから見える台
所は、思いがけず整頓されている。食器棚に
は、数えるほどの皿しかない。
 女が出てきた。また、すぐ戸を引く。
「違うみたいです」
「じゃ……あの、もらっちゃえば。安いもん
だし」
「結構です」
「……あの、ボクが欲しいって言うかも。呼
んできて」
「誰ですか、アンタ。帰って」
 女が叫んだので、私は急に、自分のやって
いる行為が愚かしく感じてきた。だけど、負
けちゃいけない。
「失礼します」
 私は女を押しのけ、家にあがり、引き戸を
ひいた。
 男の子が、下着姿で布団に横たわっていた。
起きてはいるようだが、目はつぶっている。
五歳だと、噂では聞いていた。だが、もっと
小さくにしか見えない。そして、やはり、手
や足や顔にも、青痣があった。
「もう、大丈夫。もう大丈夫だから」
 私は男の子を抱きしめる。
「助けてください。お願いです」
 背後で女が泣き崩れた。

〔発表:平成11(1999)年9月東葛座会/初出:「短説」1999年12月号(初出発表名義:舘岡有紀)/再録:「日&月」第8号2000年6月/〈短説の会〉公式サイトupload:2003.6.14〕
Copyright (C) 1999-2005 AYABE Yuji (TATEOKA Yuki). All rights reserved.

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コメント

こんにちは、何年ぶりかに「子供のいる家」を
読ませていただきました。印象に残った作品でした。
「私」は児童相談所の職員なのでしょうか。
「児童虐待」がテーマのこの作品。
なぜ、母(父)親はわが子を「虐待」してしまうのでしょうか。
自分の思い通りにならない「苛立ち」や「憎しみ」、
それだけでしょうか。ある統計によると「虐待」を働く親の
多くは子供のころに、親から何らかの「仕打ち」を受けているとか。
最近あった18年外に出してもらわなかった少女の事件。
作品の最後は、何か救われる気持ちと、「こうだったら、
母親は虐待しないよな~」との想いも持ちました。それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2005年12月 8日 (木) 08:11

ブログにUPしていただき、本当に有難うございました。
お礼が遅くなり、申し訳ございませんでした。
また、御感想をいただき、大変に嬉しく思っております。
例の18年間、外に出さなかった親も酷いものですが、
知っていながら放置していた行政も、本当に酷いです(怒)。
これを書いた時にも、酷い虐待事件がつづいていて、
やはり行政が認知していながら救えませんでした。
せめて、短説の中だけでも、子供が助かるように……と思い、
書いた記憶があります。
>作品の最後は、何か救われる気持ち
と、御感想を持っていただき、有難かったです……。
本当にUPしていただき、有難うございました!

投稿: | 2005年12月12日 (月) 08:20

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