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2005年12月22日 (木)

短説:作品「手打ちそば」(木村郁男)

   手打ちそば
 
            
木村 郁男
 
 圭介は彼岸二日目に従兄弟の家へ行った。
 野上家の墓は坂道をあがった小高い所にあ
る。夕方になって叔父とビールを飲みはじめ
た。叔母が刺身や天ぷらなど酒の肴を運んで
きた。
 外で遊んでいた猫が圭介のそばへやってき
て、めずらしそうに顔を覗き込んだ。今夜は
十五夜で廊下にススキと団子が飾ってあった。
「風情があっていいですね」
 圭介は叔父に向かって言った。叔父は猫を
圭介のそばから追いやった。
 猫は廊下へいって、ススキにじゃれている。
そのうち花瓶を倒し、びっくりしていた。叔
母がきて、花瓶を直した。
「トカゲや蛇が好きで田んぼからとってきて、
食べるのではなく、じゃれているの」
 猫は叔母に怒られても十五夜の飾りが気に
なるのか廊下をウロウロしていた。
 圭介は子供の頃、叔母の家へ来ると楽しみ
がいくつもあった。同じ年だった従兄弟と、
裏の田んぼで遊んだ。小川が流れていて、シ
ジミとりをやった。原っぱではトンボを追い
かけた。昼になると叔母が呼びにきた。昼飯
は自家製の手打ちそばだった。太くて短く見
た目は悪いが味はよかった。
 ある時、母と叔母が言い争いをした。母は
手土産に持って行った菓子折りの袋をさげ、
圭介の手をつかむとバスの停留所へ走った。
 バスが発車し、後ろを振り返ると従兄弟が
ススキの穂をもって立っていた。
 その時も、手打ちそばが出されていたが母
も圭介も食べずに帰った。圭介は今年四十に
なった。バイクの事故で二十歳で亡くなった
従兄弟の倍の人生を重ねてきた。
「ゆっくりしていって、おそば作るから」
 叔母がもう一本ビールを持ってきた。

〔発表:平成15(2003)年10月東葛座会/初出:2004年1月号「短説」/再録:2004年3月号「短説」/フランス語訳:2004年9月号「短説」/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.11.15〕
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コメント

こんにちは、東京座会の秋葉です。
「手打ちそば」、印象に残ります。
従兄弟の存在、「従」がなく、兄弟のようだったのでしょう。
小生にも、30歳を前にして病気で亡くなった従兄弟が
おります。そろそろ、その倍の年になろうとしております。
自分に引き寄せて読んでしまいました。
今年、東京座会に、「写真」というタイトルの短説を
書きました。亡くなった従兄弟達や父母が、登場します。
子供を亡くすと、親は猫を飼いたくなるのですね。
私の弟のところは、「猫屋敷」です。10匹おります。
今年のおわりにいい作品を読むことが出来ました。
それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2005年12月22日 (木) 18:48

秋葉様  コメントありがとうございます。
家庭の手打ちそば、さぞおいしいのでしょうね。
この作品は、静かに淡々と書かれているので、
より一層深い悲哀がその裏から読み取れます。
木村さんの代表作ですね。
 
因みに、我が家も「猫屋敷」であります。
そろそろ年越しそばの季節。良いお年を!

投稿: 短説ブログ編集人 | 2005年12月23日 (金) 00:53

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