« 短説ブログ二年目へ | トップページ | 疑似アビーロードの街 »

2006年1月12日 (木)

短説:作品「サンルーム」(藤森深紅)

   サンルーム
 
            
藤森 深紅
 
「ふとん干す手問がはぶけるだろ」
 夫の直輝がサンルームで寝起きするように
なって一年近くになる。
 ふとんばかりかパソコンまで持ち込んで、
一人の時問を楽しんでいるようだ。
 
(雨の日でも洗濯物干せるわね)
 早紀がこの家に決めたのはサンルームがあ
るからだった。
「おい、来てみろよ。星がすごいぞ」
 ある夜、直輝が早紀を呼んだ。
「ビール持ってきて星を眺めながら一杯やる
か」
 頭上には確かに降るような星空が広がって
いた。
「すてきね。こんな楽しみ方も出来るんだ」
「ついでにふとん持ってくる?」
 直輝が声をひそめる。
「こんな星の下でやるのもいいんじゃない?」
 
 激しい雷雨の日でも直輝は早紀を誘った。
「こんな日ってかえって刺激あるよな」
 ガラス窓をたたきつける雨音を聞きながら
この家を選んで良かったと思った。
 
 あんな日々はどこに行ったのだろう。
 子供が産まれてからというもの、子供の世
話に追われてつい夫の存在が希薄になってい
たかもしれない。
(だからといって……)
 直輝の留守中、サンルームに入りあたりを
見渡す。
 最近ではこの部屋で星を眺めることもない。
洗濯物も二階のベランダに干す。
 プロバイダーからの請求書がふとんの回り
に散らばっている。

〔発表:平成15(2003)年6月関西座会/初出:「短説」2003年9月号/再録:「短説」2004年5月号〈年鑑特集号〉*2003年の代表作「天」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.6.19〕
Copyright (C) 2003-2006 FUJIMORI Miku. All rights reserved.

|

« 短説ブログ二年目へ | トップページ | 疑似アビーロードの街 »

短説〈同人会員作品〉」カテゴリの記事

短説集2001〜2005」カテゴリの記事

コメント

おはようございます。千葉の秋葉です。
年をとると、早起きで今朝も、NHKの
ロシア語講座を見て、家族の白い目線を
感じております。
藤森さんの「サン・ルーム」、良いですね。
彼女には、数年前の関西座会の発会式で
一度、お会いしております。(15周年記念大会の
埼玉・嵐山の会館でも、いらしてたかな?)
印象に残る作品の多い、藤森さんの短説の
中でも、ことさらimpressiveな
作品だと思ってきました。
寄り添っていた二人が、時の経過とともに
それまでとは違った関係性に置かれてしまう、
というのは、よくあることと言えるのですが、
それがサン・ルームや、携帯の領収書という
この20世紀~21世紀の時代を象徴しているキーワードとともに、
とてもよく出来ている作品ですね(年鑑最優秀を
とっただけの作品ですね)。
そういえば、思い出しましたが、やはり数年前
すださんのピンチヒッターとして、「今月作の評論」を
書かせていただいたとき、藤森さんの作品(ごめんなさい、いま
タイトルは忘れましたが)にコメントしたことが
ありました。そう、確か深紅さんの名前のヨミカタを
ペルーの大統領、フジモリさんにちなんで、シンコ(sinco?=
スペイン語で数字の6でしたか?)さんと書いたような
記憶がよみがえりました。長くなりました。それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2006年1月13日 (金) 07:59

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 短説:作品「サンルーム」(藤森深紅):

« 短説ブログ二年目へ | トップページ | 疑似アビーロードの街 »