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2006年2月

2006年2月28日 (火)

短説:作品「馬と夢とラッキョウと」(秋葉信雄)

   馬と夢とラッキョウと
 
            
秋葉 信雄
 
 馬は夢を見た。草原を走っていたら目の前
にラッキョウがぶら下がっていた。にんじん
が下がっているという話は馬自身も聞いたこ
とがあるが、ラッキョウとは珍しいと思った。
だいぶ走り続けたので、一口で食べてしまお
うと口を開けた。顎をガチンと鳴らして、飲
み込もうとした。ラッキョウは危険を察した
のか、ヒラリと体をかわして、馬の耳の中に
もぐりこんだ。馬の体温が快適なので、馬の
体内深くラッキョウは入り込んだ。
 ラッキョウは、夢を見た。空腹を覚えたラ
ッキョウは猿のことを考えた。普通は猿に皮
を全部むかれてしまうのだが、反対に猿の皮
を一枚ずつむいている夢だ。むかれた皮は、
ポテトチップになっていった。ポテトチップ
はやがてキーキーと叫び声をあげ始めた。そ
のうち夢を見た。
 ポテトチップはカツオのことを考えた。カ
ツオの削り節は自分より薄くて食べやすいな
と思った。ポテトチップは削り節をほお張る
と眠くなった。
 削り節は人間のことを考えた。いつもダシ
に使われているけど、たまには奴らをダシに
したいと夢見た。
 人間をミイラにして、カリカリと削ってみ
た。これでスープを作ったが、たいした味が
でないと思った。
 ダシにされ色あせた人間は、馬のことを夢
に見た。さくら肉もいいし、焼いてもいいな。
生きたままの馬の首を切り落とした。血とと
もに、ラッキョウや猿や、ポテトチップやカ
ツオが飛び出してきた。そこで、馬は目を覚
ました。ホッとした馬の耳に、ワルツの曲が
聴こえてきた。
 遊園地のメリーゴーラウンドで人間を乗せ、
馬は生きたまま鉄柱の串刺しになっていた。

〔発表:平成12年(2000)3月東京座会/初出:「短説」2000年6月号/初刊:秋葉信雄短説集『砂の物語』2000年11月/再録:「短説」2001年5月号〈年鑑特集号〉*2000年の代表作「我」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.2.18〕
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2006年2月25日 (土)

"A horse and a dream and a shallot" by Nobuo Akiba

The Tansetsu:English Work
 
A horse and a dream and a shallot
 
Nobuo Akiba

 
  A horse had a dream. Running the plain, a shallot was dangling in front of him. Knowing that a carrot was dangling, he thought it was rare that a shallot was. As he had been running a long time, he opened his mouth to eat it at one gulp.
  He tried to swallow it with clinking jaws. The shallot might percieve the danger. It made a dodge quickly and got into the horse's ear. Because the shallot felt comfortable in the horse's temperature, it came in his body deeply.
  The shallot had a dream. Becoming hungry, it thought about a monkey. Though it's common that a monkey peels a shallot, it dreamed a monkey was skinned by a shallot on the contrary. The peeled skin became potato chips. The potato chips started to squeak and they had dreams.
  They thought about bonitos. They imagined it was easy to eat shaved bonitos since the bonitos were thinner than themselves. Taking mouthfull bonitos, potato chips became to feel sleepy.
  The shaved bonitos thought about human beings. Bonitos are always used as a stock, but they dreamed to use men as it rarely.
  They mummied men and shaved men crunchy. Then, they made soup from flakes. But they realized it is quite flavorless.
  The human being who was used as a stock and lost his color had a dream about a horse. Horse's raw meat is tasty, and roast one is as well. He chopped a living horse's head off. A shallot, a monkey, potato chips and bonitos flushed out from the horse's body with blood. And then the horse woke up. When the horse felt relieved, he heard the waltz music.
  Carrying a man on a merry-go-round of an amusement park, the horse was spiked alive through his back..

(translated by author himself)〈March 2000 Tokyo session〉〔発表:平成12年(2000)3月東京座会/初出:「短説」2000年6月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.2.18〕
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2006年2月19日 (日)

短説:作品「恐竜のタマゴ」(小森千穂)

   恐竜のタマゴ
 
            
小森 千穂
 
 案の定、夫は何も言わなかった。
 お帰り……と振向いただけで、また黙々と
テレビに見入っている。夫の見るものは、殆
んどニュースかドキュメンタリーだ。
――十時頃迄には帰ります――比佐子の書い
たメモが食卓の上に白々と張りついたままだ
った。どこ行って来たの? くらい聞いてく
れたってよさそうなものなのに……いつもの
事なので腹も立たない。今日は送別会がある
からタ食はいらない、というので久し振りに
姉の家へ出掛けたのだった。いつもの夫への
愚痴なので、あなたは賛沢なのよ、と姉は本
気で聞いてはくれず、比佐子の心は満たされ
ず仕舞いだった。――人生あと三十年もある
んだもの、どうにかしなきゃ――姉との話の
続きのように、比佐子は心の中でそう咳いた。
 子供達がいた頃は家の中に賑やかな会話が
あった。しかし今考えてみると、喋っていた
のは自分と子供だけだったのだ。子供達が巣
立ち、夫と二人残されてみて、初めて比佐子
は夫との間に会話がない事に気がついた。殆
んど比佐子からの一方通行なのである。
 学生時代、比佐子は卓球の選手だった。ネ
ットの向うに送った球が、即座に打ち返され
てくる小気味良さが彼女は好きだった。しか
しラリーが続かなければ試合は終了してしま
う。人との会話も同じだと思った。比佐子の
目には球を受けとめようとしない夫の背後に
白いピンポン球が山の様に溜っているのが見
えた。それはあたかも恐竜のタマゴの群れの
ようだった。タマゴはやがては艀化して夫を
食いちぎるかも知れなかった。
「恐竜に食べられちゃっても知らないから」
 思わず声が出た。
「恐竜がどうしたって?」
 子供のような目で夫は振返った。

〔発表:平成14年(2002)9月藤代木曜座会/初出:「短説」2002年12月号/再録:「短説」2003年5月号〈年鑑特集号〉*2002年の代表作「我」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2003.12.19〕
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2006年2月14日 (火)

短説:作品「青春」(小池ふさ)

   青 春
 
            
小池 ふさ
 
「あそこなら空いてます」
「貴女はよく見えるな」
 勝爺さんは、限鏡をハンカチで拭くと、八
重婆さんの指さす方を見た。
 ネオンサインの看板は、赤い文宇で空室あ
りと書いてあった。
 二人は、そのホテルに定めた。自動ドアが
開いたので中に入ると、フロントのカウンタ
ーから若い女性の声が聞こえた。
「お泊まりでしょうか」
「いいえ、少しばかり休ませてもらいたいん
だ」勝爺さんが答えた。
 三〇五号の部屋の鍵を受け取って、エレベ
ーターで三階に上がった。
 その部屋の窓をあけると、青葉がむせかえ
る程だった。
「緑に囲まれて、この部屋は良いね」
 二人は同級生だ。今日は月に一度の、お地
蔵さんの縁日で、デートの日だった。
 新取手駅から二十分ばかり歩くと、小高い
山があり、その頂上に地蔵堂があって、参拝
の帰途だった。
「俺達は不倫じゃないからな」
「お互い相手がいなくなったんだから」
「貴女は戦争未亡人だけど、立派に子供は育
てたんだから、何も若い人に遠慮することは
ないよ」
「わたしらの青春はなかったものね」
「皆兵隊に志願して死んじまってよ」
「うちの亭主も今では犬死みたいなものさ」
「若いのに早すぎたよな。俺んちの婆さんも
亡くなって三年たつけど、俺を迎えにこない
のは、向うに良い人が見つかったんだろう」
「そうかもしれないわ」勝は入歯をはずし、
八重はイビキ止めのクリップをつけて、二人
はダブルベッドの上で昼寝をした。

〔発表:平成9年(1997)10月藤代木曜座会/初出:「新いばらき」1997年12月1日号/再録:「短説」1997年12月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2006.2.14〕
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2006年2月 9日 (木)

深大寺と草田男・虚子の句碑

天台宗 別格本山 浮岳山 深大寺 (東京都調布市)
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中村草田男句碑
  萬緑の中や吾子の歯生え初むる

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高浜虚子 胸像と句碑
  遠山に日の当りたる枯野かな
      (明治33年11月25日虚子庵例会にて)
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深大寺動物霊園

“つばさ”ちゃんの葬儀を執り行ってきました。
午後一時、深大寺動物霊園にて火葬(立会い葬)
最後の見送りをし、骨を拾ってきました。
立派に納骨され、再び家に帰ってきたところです。

追悼:娘が小学四年のとき書いた短説「つばさ」

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2006年2月 8日 (水)

わが家の愛猫“つばさ”ちゃんが永眠

 このブログのちょうど百件目の記事に、プライベートなことで恐縮ですが、今朝六時十二分頃、わが家のお姫様・三毛猫の“つばさ”ちゃんが、息を引き取りました。本日はお通夜をします。
 昨夜も、息子と私とで一緒の布団で温め続けましたが、ついに力尽きました。すでに衰弱していたためもありますが、最期は苦しむこともなく静かに眠りに就きました。ほとんど鳴かない猫でしたが、最期の最期にひと声鳴いたようです。
 最近のわが家の合言葉は「生きてる?」でした。朝、最初に起きた妻が、私に抱き抱えられているつばさちゃんの異変に気づきました。もう死んでいるように見えましたが、しばらくさすっていると、口を開けピックと動きました。しかし、それが最期だったようです。
 起き抜けの息子は、動かなくなったつばさちゃんに頬ずりし、「冷たくなっちゃってる」「よく頑張ったね」と大泣き。
 動物好きの子供でも、死体は気味悪がるものです。たとえ自分の家で飼っていた動物でも。しかし、息子はまったく気にならないようです。生まれた時からそばに猫がいて、ハイハイする頃から猫に突進していたものですから。息子が猫の死を看取るのはこれで二度目。前回はもっと小さかったのですが、やはり頬ずりし大泣き。ちょっとびっくりしましたが、小学生ぐらいから身近に生物の死を体験するのはいいことでしょう。「命」とは何かを学ぶことになりますからね。
 娘も同じです。朝早く学校に出て行く娘にはまだ知らせていません。
 猫の難病とされる口内炎の持病がありました。歯を抜く手術もしました。薬も与え続け、それでも不足の時は点滴をしてもらったこともあります。わが家で一番医療費がかかっていました。
 もともとは捨て猫です。野良猫ではありません。明らかに人に飼われていた猫で、うちに来る以前さほど放浪していたような形跡はなく、おそらく、わが家が猫屋敷ということで、うちのそばに捨てられたのでしょう。
 しかし、まんまとわが家に入り込んでからは、五分と庭に出ることもなく、真夏の暑い時を除けば、ほとんど毎日誰かと一緒に寝ていました。何不自由なく過ごせたと思います。看護もできる限りのことはしました。それで良しとしておきましょう。
 つばさちゃん、安らかにお眠りください。  −合掌
 
ホームページ「西向の山」の「猫の部屋」にも生前の姿がアップされています。
下の写真は、昨年のクリスマス。まだ本が読めた(?)頃のつばさちゃん。
辞書を調べていたら、眠くなっちゃいました、の図。
tsubasa051225

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2006年2月 3日 (金)

節分祭

氏子世話人になっている国領神社の節分祭に行ってきました。
御祓いしてもらい、豆まきを催行してきました。
この神社は甲州街道沿いのほんの小さな神社ですが、見事な藤棚で知られています。
「千年藤」と呼ばれ、調布の名所になっています。時季が来たらまた。
 
ts2a0101.JPG

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2006年2月 1日 (水)

短説:作品「視線」(星子雄一郎)

   視 線
 
           
星子 雄一郎
 
 人は多ければ多いほどいい。擦れ違う時に
肩が触れそうなくらいがいい。場所は、休日
前の地下商店街と決めている。
 
 下着を履き替え、ピンクのキャミソールと
チェックのマイクロミニに着替えた私は、洗
面所で化粧し、カツラを被って紳土用トイレ
から出る。喧噪の中、すぐに驚きと奇異な視
線、潮笑の風に包まれる。
「なにあれ、あの親父、変態じゃん」
 いつものように遠くの一点を見つめて、地
下街を歩き始める、ボンヤリしながらも広い
視野の中、多くの人間が私に注目しているの
がわかる。気分は一気に高揚するが、努めて
冷ややかな表情をつくり、やや緩慢なリズム
で歩く。私の踏み出す一歩で、他人が私から
離れようと大きく進路を変えていく、この喜
び。他人の人生を変えるほどの影響力。
「あのオッサンすげえ、たってるよ」
 勃起したものはスカートの上からでもよく
見ればわかる。…若いカップルやOLたち、
嘲笑する者。今さえ楽しければいいか、お前
らの若さなど武器でさえない。私を一瞥して
俯き歩く会社員風の男。私も少し前までお前
達のようだった。今はこの瞬問の為だけに生
きている。人々は私を見て笑っているが、私
はお前らの平凡な人生を嘲笑う。
 ……感じる、全く異質な視線を感じる。雑
踏の何処からか私に向けられる視線。雑貨屋
の中の小さな影、6〜7歳の女の子が怒りを
込めた、諭すような目で私を見ている。こみ
上げる恐怖から視線を外そうと抵抗する前に
彼女の眼は完全に私を捉え、その眼に吸い込
まれるような感覚と共に汗が噴出し、全身の
力が抜けていく。
 あの娘はまだ私を見続けている。

〔発表:平成16(2004)年7月関西座会/初出:2004年10月号「短説」/再録:平成17年5月号「短説」〈年鑑特集号〉2004年の代表作「天」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.12.10〕
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