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2006年6月 3日 (土)

短説:作品「夜泣き街道」(道野重信)

   夜泣き街道
 
            
道野 重信
 
 おれは終電車を降りた。コンビニに寄った。
缶ビールとつまみを買った。コンビニの脇に
石碑があった。おれはその夜、はじめて石碑
に気がついた。夜泣き街道と書いてあった。
おれが普段通る商店街のことだ。由来を読ん
だ。奈良時代の街道だったらしい。商人の往
来が多かったが、中でも農村で子どもを買い、
町に売りに行く連中がよく使ったらしい。夜
ごと、子どもたちの泣き声が響くので、夜泣
き街道と名付けられたという。
 商店街はみなシャッターを閉めていた。ど
こにでもあるような商店街だ。今のアパート
に住んでもう十年になるが、奈良時代の街道
だったなんて気がつかなかった。おれはビニ
ール袋から缶ビールを出して、飲みながら夜
泣き街道を歩いた。
 煙草屋のシャッターの前でかすりの着物を
着た男の子が泣いていた。おれは声をかける
気になれなかった。足早に男の子の前を通り
すぎると、風景が一変した。煙草屋は藁葺き
の農家になった。かすりの着物の男の子は農
家の戸の前で号泣していた。男の子の腰には
縄が巻かれていた。そして、縄の片方はおれ
の手に巻かれていた。
「早く連れて行ってくだされ。長引くとよけ
いに悲しいだけですだ」
 戸の向こうから涙声が怒鳴った。おれは必
死で走った。縄を離したかったが、蛇のよう
に手にからみついていた。泣き叫ぶ男の子を
ひきずって、おれは夜泣き街道を走った。そ
こはもう商店街ではなかった。走っても走っ
ても山道だった。山の端から日が昇ってくる
のが見えた。
 朝になって、おれは自分のアパートの前に
立っていた。手にぼろぼろになった縄がから
みついていた。

〔発表:平成15年(2003)6月関西座会/初出:「短説」2003年9月号/再録:「短説」2004年5月号〈年鑑特集号〉*2003年の代表作「地」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.7.26〕
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コメント

「夜泣き街道」。道野さんの数多い作品の中でも、秀作の
一つ。その年の年鑑でも、小生は点を入れたことを
思い出します。
時空を越えた作品で、なんらかの自分の想いを書き表せたら、
と常に思っております。そうした想いを、道野さんが
この作品の中で、試みられていると感じました。
「縄」は、米岡さんの「風に乗って」の短説集の中でも
キーワードとして記憶に残ると、解説に書かせてもらいました。
生活は、いやでも「縄」を引っ張って重たい荷物を運んで
いかなければならないようです。ときたま何を運んでいるのか、
何をひっぱっているのか、忘れてしまうこともあります。
また、忘れたいこともあるでしょう。でも気がつくと、どこかに
向かってやはり「縄」を引きずっている自分がいます。
いい作品です。それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2006年6月 3日 (土) 22:45

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