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2006年7月14日 (金)

短説:作品「カルガモ」(船戸山光)

   カルガモ
 
            
船戸山 光
 
 朝の電車の混雑が嫌で、山田は一番電車で
通勤している。
 今日も天気は全国的に晴れで爽やかな一日
だとの天気予報である。
 地下鉄を降りて、階段をゆっくりと上ると
眩しいような天気だ。
 一般の通行を開放しているM物産の御影石
を敷きつめた構内に入ると、珍しく大勢の人
が池の回りに集まっている。
「ああ、そういえば昨日のニュースで、今年
はカルガモの親がそばにいなくてどうしたの
か、と言っていたな」
 独り言を言いながら池の側に近づいて見る
と、数人のカメラマンがおもいおもいにシャ
ッターを切っているところであった。
 百坪程の池の中に、薄茶色の産毛に白い斑
点のあるカルガモが、五、六匹、水深十セン
チ程の水面を泳いでいた。
 何時ものコースを歩いていた山田の目の前
に、群れからはぐれた一匹のカルガモが、よ
ちよちと近づいてきた。体全体をゆすって歩
く姿が、ふと、孫の幸太を思い出させた。
 一匹捕まえて持って行ったら喜ぶだろうな、
そんな事を思いながらポケットに手を入れる
と硬いものが手に触れた。取り出して見ると
プラスチックのピストルだ。昨日、遊んでい
るうちに幸太がいれたのだろう。
 可愛いいカルガモの仕種に誘われて、山田
はピストルを取り出して、カルガモに向けて
引き金を引いた。「バアーン」と大きな音が
してカルガモは横になって動かなくなった。
 カメラマンが、一斉に山田をみた。ガード
マンが、走って来るのが見えた。
 山田は目の前が真っ暗になった。大勢の週
刊誌の記者に囲まれている自分とテレビに大
写しになっている自分が重なった。

〔発表:平成12年(2000)6月藤代木曜座会/初出:「短説」2000年9月号/再録:「短説」2001年9月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2006.7.12〕
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コメント

なつかしい、船戸山さんの「カルガモ」。
この暑い季節にピッタリの作品。
最後はもっともっと熱くなる。
Happiness is a warm gun.
というJOHN LENNONの作品を
想起させます。孫のおもちゃが、本物の
銃になってしまう、という設定。
小生も孫がおりますので、余計に
リアルさを感じました。傑作です。
それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2006年7月17日 (月) 00:07

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