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2006年7月25日 (火)

短説:作品「ばあさんの庭」(五十嵐まり子)

   ばあさんの庭
 
          
五十嵐 まり子
 
 すり鉢型のアリジゴクの巣に小さな蟻が一
匹落ちた。差し渡しが四センチはある大きな
穴だ。蟻が這い出ようと少し登りかけると、
細かいさらさらの砂は崩れ、また底に戻って
しまう。突然すり鉢の底から砂が放り上げら
れた。小さな蟻は砂と一緒に穴の外へ放り出
された。ぱあさんは指でつまんで蟻を穴の底
へ落とす。同じことを三回繰り返して四回目、
小さな角のようなものが二つ底に見えたかと
思うと、蟻は底の砂の中に姿を消した。
「間抜けなアリジゴク」
 ばあさんは独り言を言った。
 
 剥げて落ちそうになっている杉の皮が、そ
の先にセミをぶら下げてゆらゆら揺れている。
蝉は時々もがいているように見える。足が引
っかかって飛べないのだろうか。
 近くに寄ってよく見てみると、杉の皮と思
ったのは茶色の蟷螂だった。カマのところで
しっかりと蝉の頭を引っ掛けている。朝の掃
除の時に、蝉の羽だけが落ちているのを何回
か見たが、きっと蟷螂が食べたに違いない。
「わるいね、放してやるよ」
 ばあさんは蝉を放してやった。
 
 七十センチほどのグレープフルーツの木に
アゲハの幼虫が五匹いた。大きいのは三セン
チぐらいになっていた。翌日、一番小さいの
を除いて全部姿を消した。木の中程にお腹を
膨らました青い蟷螂が、木の一部のようにし
てじっと動かずにいる。
「みんな生きるためだもの。仕方がないね」
 ばあさんは足元の猫に言った。
 
 ばあさんは一人で食事を摂る。猫は隣の椅
子に乗って、何かもらえるかと待っている。

〔発表:平成16年(2004)9月上尾座会/初出:2004年12月号「短説」/WEB版初公開〕
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コメント

おはようございます。五十嵐さんの「ばあさんの庭」。
いいですね。こうやって生き物は生き物をくらって、
生き延びていくんですね。「ばあさん」もいつか誰かに
食べられちゃうことでしょう。隣にいる猫にかな?
一つ誤植があります。二連目の「弾」、「蝉」ですよね。
「タマ」がぶら下がっているのには、ビックリします。
小生も誰かにいつか食われてしまうのでしょう。
そのときまでには、成長してオイシクなっていたいものです。
それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2006年7月31日 (月) 08:05

秋葉さん、誤植をご指摘いただきありがとうございます。
訂正しました。
「弾は時々もがいているように見える」
-なんかシュールで捨て難い気もしますが……。

投稿: 「短説ブログ」編集人 | 2006年8月 1日 (火) 00:08

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