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2006年8月20日 (日)

短説:作品「とうとうたらり」(福本加代)

   とうとうたらり
 
            
福本 加代
 
「とうとうたらりって感じね」
 桜の木を見上げながら、原田さんが呟く。
「女学生のころ読んだ、上田敏の『海潮音』
の一節に、匂も音も夕空に、とうとうたら
り、とうたらり、というのがあったわ」
「どういう意味なのでしょうか」
 わたしは原田さんの車椅子を押す手を止め
て尋ねた。
「それがよく判らないのよ。でもその文句が
気に入って覚えていたのね。それでこういう
歌を詠んでみたの」
 原田さんはゆっくりした口調で言う。
「春の日は 極彩色の 曼荼羅に つつまれ
眠る とうとうたらり」
「曼荼羅ってチベット的ですね」
「ええ、それで、チベット語が発祥という説
もあるそうよ。ネットで調べたのだけれど」
「パソコンなさるんですか」
「孫が来たときに設定してくれてね。さっき
の歌も、題詠マラソンという、ネット上の催
しに発表したものなのよ」
 わたしは桜の木の下にシートを敷き、原田
さんを座らせた。平日だが幾つかのグループ
がお弁当を広げている。
「今朝、急に思いたったので、コンビニのお
握りしか用意できなくて」
「ええ、それでじゅうぶんよ」
 原田さんはお握りを頬張る。実を言うとわ
たしは、出不精になった彼女を、どう誘おう
か迷っていたのだ。
「チベットにもね、姨捨山伝説というのが、
あるそうよ。お婆さんたちはね……」
 お握りを食べ終え、ペットボトルのお茶を
飲みながら、原田さんは言い続けた。
「とうとうたらり、とうたらり、と歌ったり
踊ったりしながら、お山にゆくのよね」

〔発表平成16(2004)年3月東葛座会・4月ML座会/初出:2004年6月号「短説」/WEB版初公開〕
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コメント

ありがとうございます。これでゆっくり眠れます。

投稿: katorea | 2006年8月21日 (月) 16:50

福本さんの「とうとうたらり」、いいですね。
オノマトペかと思ったら、違うようですね。もしかしたら、
「到到道了」という中国語に関連するかも・・・。
発音は、「タオタオタオラ」に近いんですが、
「やっと道にたどりついた」というような意味合いかと。
もしそうだったら納得しやすいですね。それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2006年8月25日 (金) 07:30

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