« 秋葉信雄氏が第二短説集を刊行 | トップページ | 短説:作品「ホットドッグ」(桑井朋子) »

2006年10月 6日 (金)

短説:作品「玉」(西山正義)

   
 
            
西山 正義
 
 通勤途中、朝晩通る鉄路沿いの細道に、地
場野菜の販売所があった。葦簾を張っただけ
の無人の掘っ建て小屋である。ある日の帰り、
そこについぞ見たことのない物体が置かれて
いた。色といい艶といい、最初は玉こんにゃ
くかと思った。が、それにしては異様に大き
い。僕が近づくと、その玉がニッと笑いかけ
てきた。僕は立ち止まり、周りを見回した。
 手にとってみると、意外にずっしり、ひん
やりしている。大きさはちょうどプリンスメ
ロンぐらい。こんにゃく玉のようでもあった
が、とても食べられそうにはない。そもそも
売り物だろうか。誰かのいたずらではないの
か。人が来た。鞄で隠す。とりあえず百円玉
を二枚集金箱に入れ、アパートに持ち帰った。
 同僚の披露宴でもらった皿を引っ張り出し
てきて、その上にのせておく。見ていると、
気持ちがなごむような、不吉な予感がしてく
るような。生きているようにも思える。僕は
そいつを机の真ん中に飾り、家にいる時はそ
ればかり眺めているようなことになった。
 数日後、少し大きくなっていた。手をかざ
すと、喜んでいるように見える。二週間後、
洗ってみた。するとさらに大きくなった。水
分を含んだからではなく、どうも僕がさする
と、加速度的に膨張するようだ。
 しかし、僕がいない間に縮んでいたりもす
る。僕はまた触らずにはいられなくなる。一
体これは何か。こいつは何かの反映ではない
のか。同僚は、こんな僕にもついに女ができ
たかと言う。曖昧にこたえるしかない。
 朝起きる。会社から帰る。週末はどこへも
行かない。僕はそいつを日夜さすった。
 そしてついに、それは部屋を圧するまでに
なった。人間が入る隙間もなくなったので、
僕はアパートを引き払い、会社も辞めた。

〔発表:平成17年(2005)7月・第117回通信座会~8月・ML座会~9月・東葛座会~9/10月・ML座会(第10稿)/初出:2005年11月号「短説」/再録:「西向の山」upload:2006.2.5〕
Copyright (C) 2005-2006 NISHIYAMA Masayoshi. All rights reserved.

|

« 秋葉信雄氏が第二短説集を刊行 | トップページ | 短説:作品「ホットドッグ」(桑井朋子) »

創作」カテゴリの記事

短説〈西山正義作品〉」カテゴリの記事

短説集2001〜2005」カテゴリの記事

コメント

ついに登場しましたね。短説の歴史上の名作だと思います。
ところで、「月」「桜」「豚」「玉」と、漢字一文字のタイトルがありますね。その中でも、「玉」は珠玉と思います。

投稿: 五十嵐正人 | 2006年10月 7日 (土) 01:44

いや~、おもしろいですね、この「玉」は。五十嵐さんに言われて
西山さんの作品に、一文字のタイトルが多いのに気づきました。
「豚」も好きですね。(豚と玉を逢わせてしまう妄想に囚われそう)
こんにゃく玉は、ものにより大きくなるとスイカぐらいになります。
あるとき職場の片隅に置いておいたら、何かが出始めました。
土中に埋めるとしばらくして、極彩色の花を咲かせました。
初めてこんにゃくの花を見たわけです。
そんなことを思い出させてくれました。
それにしても、「玉ちゃん」は、その後どうなったのでしょう?
また誰かに触られるのをまっているのでしょうか。それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2006年10月 9日 (月) 10:33

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/75251/12167780

この記事へのトラックバック一覧です: 短説:作品「玉」(西山正義):

« 秋葉信雄氏が第二短説集を刊行 | トップページ | 短説:作品「ホットドッグ」(桑井朋子) »