« 無縁坂のお玉さん | トップページ | 横山とよ子さん追悼 »

2007年1月11日 (木)

短説:作品「トルソ」(すだとしお)

   トルソ
 
           
すだ としお
 
 私は看板を持って歩き回ることを仕事にし
ている。ある駅に行って看板を手配師にもら
う。ある駅としか書けないのは、駅の名前を
書いてしまうと、同業者が増えて仕事にあぶ
れてしまうことになりかねないからだ。
 手配師は顔しか知らない。名前も知らない
ことにしておく。実は小学校の同級生だ。
 看板はあやしい物ばかりなのだが、実に有
益な情報が掲載されている。死にたい方の手
助けしますとか、内臓探していますとか、愛
犬見つけたら二十万円さしあげますとか、様
々です。見た人が思わずメモを取ってしまう
ほどです。
 けれど、今日は、『生首を募集しています』
という看板を持たされている。いくらなんで
も人殺しではないだろうとは思う。仕事を首
になるなら何度も経験している。そんなので
はない。首だ、人の首。生首ってことなのだ
ろうか? だとしても、ただ生首と書いてあ
るだけで、鰻の首でも鶏の首でもいいのだか
ら、法律には違反しないかもしれない。
 こんな募集に応募してくるやつも、募集す
るやつもほんとにいるのだろうか? 一日の
終りに手配師に看板を返す時に聞いた。
「応募者いました?」
「いたよ」
「ほんとにいたんですか? でも誰が首を欲
しがっているんですか」
「情報源は秘密だ」
「いい金になるんなら、私が首を差し出して
もいいですよ。まさか殺されはしないでしょ
うから」
 そう言ってしまったので、明日、ある場所
へ行かないとならない。逃げるなら今の内だ
が、仕事をなくしてしまうことになる。しか
し、もう右目も腎臓もないのだから……

発表:平成12年(2000)10月東京座会/初出:「短説」2000年12月号/再録:「短説」2001年5月号〈年鑑特集号〉*2000年の代表作「地」位選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2003.12.19〕
Copyright (C) 2000-2007 SUDA Toshio. All rights reserved.

|

« 無縁坂のお玉さん | トップページ | 横山とよ子さん追悼 »

短説〈同人会員作品〉」カテゴリの記事

短説集1996〜2000」カテゴリの記事

コメント

こんばんは、すださんの「トルソ」、小生の好きな作品の
一つです。確かその年の年鑑でも、点を入れたはずです。
「首」と「クビ」をかけ、「生きていけない自分」を表現した
「すだワールド」の傑作の一つだと思います。
それにしても、すださんの作品世界は、小生の感性に
響いてきます。短説の会で初めて会ったときのすださんの
第一声は、「手首を切りたいんですよ」という発言だった。
最初はなんだろう、この酔っ払いは(自分もビールを飲んで
いたんですが・・・)と。その後、その言葉が、短説の会最初の
短説集のタイトル、「短い鉛筆」になり、すださんの作品理解を
進める大きなヒントになりました。
すださんが挑戦する、「短説画集」や「絵本短説」等々。
芦原さんとまた違う、一つの短説世界です。
それでは、また。

投稿: 秋葉信雄 | 2007年1月15日 (月) 20:12

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 短説:作品「トルソ」(すだとしお):

« 無縁坂のお玉さん | トップページ | 横山とよ子さん追悼 »