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2007年1月25日 (木)

短説:作品「館の緋」(横山とよ子)

   館の緋
 
           
横山 とよ子
 
「栗毛のようすが変だよ。大好きな飴も食べ
ようともしない」子供達が父に知らせた。
 父は自転車に飛び乗り、獣医を呼びに走っ
た。心配して近所のおじさん達も駆け付けた。
 獣医は、腸捻転と診断。素早く指図した。
 子供達は、ぬるま湯で石ケンを溶いた。
 大人達は、縄で丸太を結び枠を組み、首も
尻尾も縛り上げ馬が身動き出来ない様にした。
 獣医は上半身裸になり、腕に石ケンを塗り
肛門に突込み、馬糞を掴み出した。子供達が
溶いた石ケン水を、バケツ一杯浣腸した。
 轡の端から竹筒を差し込み薬を流し込んだ。
 毎日、父は餌に気を遣った。干し草を刻み、
糠、餅米の粥、丸麦を煮て切藁に混ぜ、飼葉
とし、麩に味噌を加えて汁とし、生卵子を飲
ませた。馬はだんだん元気になり、毛艶は良
し、はち切れんばかりの尻には、白い丸い模
様が浮き出て来た。その模様が、六文銭の形
に似ている事から、六文の連銭というそうだ。
 最高馬の証しと父は喜び尚一層世話をした。
 昭和十六年、軍馬徴発令が下った。農耕馬
でも検査を受けなくてはならない。
 勤行川沿のグラウンドには、下館町を中心
に近在五ヶ村から、百数十頭の馬が集った。
 三分の一の合格馬の中でも、我が家の栗毛
は、第一位で合格。下館町の誇りと係官から
館の一字をとり、〝館の緋〟と命名された。
 父は買上価格最高の大金五百円を手にした。
 その夜、病気の時お世話になった人々を呼
んで、盛大な酒盛りをした。館の緋は子供達
から好物の飴をもらい旨そうに食べた。
 翌朝、父は飴の袋を腹掛けに入れ駅に向っ
た。貨車に乗せようとしても、館の緋は、足
を踏ん張って乗らない。仕方なく係官に飴を
渡し、帰って来たと云う。
「今度は牛にしよう」と父は言った。

〔発表:平成16年(2004)4月藤代座会/初出:「短説」2004年7月号/WEB版初公開〕
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