« あの絶叫ヴォーカルが…… | トップページ | 神田駿河台下の桜 »

2007年3月20日 (火)

短説:作品「鶏」(太秦映子)

   
 
            
太秦 映子
 
「こっ、こっ、こっけーこっこっ」鶏が鳴い
た。走り出した。
「ごっごっ、ごっごっ」後を一羽の鶏が追う。
十坪の鳥小屋の中を追い回す。あっちにぶつ
かり、こっちに飛び回り、逃げ回る。天井近
くの梁に飛び乗った。
 翌日、又、追い回している。梁に飛び乗っ
て下りてこない。夕方、下りた。
 次の日、二羽で追い回している。梁に飛び
乗った。下りて来ない。日暮れて、下りた。
 その次の日、五羽で追い回している。
 又その次の日、十五羽、全部で、追い回し
ている。
「ぎゃーっ、ぐっぐっ、ぐっぐっ」と逃げ回
る。「ごっごっ、ごっごっ、どっどっ、どっ
どっ」一羽を十五羽が追い回す。
 一羽が追いついた。尻を突付いた。
「ぎゃっ、ぎゃっー」羽根を広げ、足をばた
っかせ、梁に飛び上がった。羽毛が一掴み分
抜けた。土ぼこりが舞い上がった。下で十五
羽が騒いでいる。
 次の日、梁から鶏は下りて来ない。十五羽
は餌を食べ、水を飲み、砂を浴び、卵を産む。
 翌日梁から下りた。十五羽が追いかける。
すぐ追いつかれた。一羽が尻を突付いた。
「ぎゃっ、ぎゃっ」逃げる。二、三羽が追い
ついた。尻を突付いた。
「ぎゃっごっ、ごっ」くちばしを突き出し、
とさかを立てて逃げる。十五羽が追いかける。
追いつかれた。十五羽は尻を突付く。逃げる。
走り回る。突付かれた尻から血が出た。十五
羽は十五のくちばしで突付く。腸を突付き出
した。血まみれの腸を引きずりながら、鶏は
逃げ回る。
「こいつはもう駄目だ。鶏鍋にでもするか」
と飼い主が小屋から出した。


〔発表:平成15年(2005)11月上尾座会/初出:2006年2月号「短説」/WEB版初公開〕
Copyright (C) 2005-2007 UZUMASA Eiko. All rights reserved.

|

« あの絶叫ヴォーカルが…… | トップページ | 神田駿河台下の桜 »

短説〈同人会員作品〉」カテゴリの記事

短説集2001〜2005」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 短説:作品「鶏」(太秦映子):

« あの絶叫ヴォーカルが…… | トップページ | 神田駿河台下の桜 »