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2007年5月11日 (金)

短説:作品「夜明けにララバイ」(秋葉信雄)

   夜明けにララバイ
 
            
秋葉 信雄
 
 彼は楽器を背負い町を歩いた。
 一本も弦が張ってないギター。
「お客さん。可愛い子がいますよ」
 ポン引きが、すりよる。
「どうですか、遊んでいきませんか」
 首を振って、断わった。男が離れていく。
 公園の暗がりから、女が現れた。
 長い髪を後ろに束ねている。
「もう帰るの、夜は長いわよ」
「金は持ってない。ほかに当たりな」
「誤解しないで。私はそういう女じゃないわ」
 女は静かに言った。
 杉の大木の後ろから、キーボードを引っ張
り出した。
「あなたのギターとお手合わせをしたいだけ
なの」
「なんだそれを早く言えば」彼は背中からギ
ターをおろした。
 女は鍵盤のないキーボードで、スローな曲
を弾き始めた。
  なくしたこどもの 年さえ忘れ
  ひとりさまよう 還れない街
  神様の涙が 空の果てから
  地上に降りて 私を洗う
  雨 雨 雨 そして 雨
 彼は、見えない弦を張替え、キーボードに
音を含わせて弾き始めた。
  背中の子が 腐り始める
  いつになっても 赤ん坊のまま
  俺の心の 闇を食べてる
  God's Rain God's Rain
  No more Pain No more Pain
 彼は昔の女房のキーボード弾きを、抱き寄
せた。やがて雨はやんで、空は明るくなり始
めた。彼は空っぽのギターケースの中で、小
さな腐った幼児になっていた。

〔発表:平成15年(2003)7月東京座会/初出:「短説」2003年10月号/再録:「短説」2004年5月号〈年鑑特集号〉*2003年の代表作選出作品/初刊:秋葉信雄短説集『DEAD DECEMBER(死んだ師走)』2006年9月/〈短説の会〉公式サイトupload・2006.11.21〕
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コメント

おはようございます。秋葉です。ありがとうございます。
小生の作品を載せていただいて。
いくつか誤植が・・・。
「一本も弦が張ってない」です。
「長い髪を後ろに」です。その後も同様です。
この作品は、いくつかの唄と芝居からヒントを得ました。
「神様の涙」は小生が作詞したもの。
シンガー・ソング・ライターの宮田まゆみさんに
差し上げた歌詞であります。
このまえ、渋谷のコンサートでアンコールで歌ってくれました。
芝居からの刺激は、在日韓国人のキム・スジュンが主宰する
「新宿・梁山泊」の舞台、それも寺山修司がとりしきった「状況劇場」の生き残り、大久保鷹のセリフからヒントを貰いました。
それにしても・・・画面で見ると自分の作品に思えないのは不思議な
ことですね。シュクラン(アラビア語で、ありがとう)。

投稿: 秋葉信雄 | 2007年5月12日 (土) 07:33

秋葉様
大変失礼致しました。
誤植は訂正しました。
(公式サイト版も併せて訂正)
またお気づきの点がございましたらよろしくお願いします。

投稿: WEB版『短説』編集長 | 2007年5月15日 (火) 00:25

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