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2007年6月 7日 (木)

短説:作品「ツチノエネヤ」(吉田龍星)

   ツチノエネヤ
 
            
吉田 龍星
 
 ツチノエネヤヘ行く山道は曲がりくねって
おり、入口には厳重に柵をほどこしてある。
 十四歳になった少年が、一度だけ、独りで
入り、一夜を過ごす習わしがある。
 その日が何時だなんていう取り決めは全く
ない。明け方、カミノミコの封印をしたナタ
が、家の戸口に置いてあると、少年は、直ち
に全身を洗い清め新しい服に着替えたうえ、
顔に面をつける。そして、ナタを持ち、村は
ずれにある細い入口をめざすのだ。たいてい
次の日の午後には戻ってくるが、前の晩の出
来事を話すことはない。勿論、ツチノエネヤ
がどんな所かも、話してはいけない決まりだ
から、少年たちは想像するのみである。
 
「サンチャの所、一昨日だったんだつて」
 ノボルが息を荒くしながら、タムヤの耳元
に囁く。村の広場の一角。女たちが小さい子
の面倒を見ながら共同で家事をしている。
「どうりで、ここに来なくなったものな」
 タムヤは、粉ひきの手伝いを終えると、は
んの木の手頃な枝に登り、女たちの動作を眺
めていた。最近は、言いつけられた仕事が終
わると、殆どこうしている。小さい女の子の
遊び相手もつまらないし、女たちのヒソヒソ
話や秘めやかな笑い声が酷く耳障りだった。
そのうえ、香の混じった匂いは、男たちが酌
み交わす酒に比べ、妙にくすぐったかった。
「おまえも誕生日、終わったんだろう。そろ
そろ、あそこへ行く番じゃないのか」
 ノボルは、顔をニヤつかせてタムヤの太股
を掴む。兄たちに何か聞いてるんだろうか。
「やめろよ。気持ち悪いな」
 タムヤは手を払いのけると、一段高い枝に
飛び移り、ツチノエネヤがあるという淡い緑
に包まれた山の頂を見つめた。

発表:平成10年(1998)7月藤代日曜座会/初出:「短説」1998年9月号/再録:「短説」1999年5月号〈年鑑特集号〉*1998年の代表作選出作品〕/〈短説の会〉公式サイトupload:2006.11.21〕
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