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2008年1月 9日 (水)

短説:作品「書斎」(藤森深紅)

   書 斎
 
            
藤森 深紅
 
 叔父の書斎はすこし徽臭かった。
 三十年ぶり位に書斎に入ったのに、あやは
その匂いを覚えていた.
 叔父が書斎に本を一杯に広げて、虫干しす
るのを手伝ったことがある。
 本の間を銀色の紙魚が走り抜けるのを見て、
綺麗だと思ったものだった。
「あやちゃん、久しぶりだね」
 叔父の葬儀で顔を合わせた従兄の邦夫はす
こし額がはげ上がっていた。
 この家にいとこ達が集まると、よくかくれ
んぼなどをして遊んだものだ。
 あやは特に邦夫に可愛がってもらった。
 よく、あやを膝の上に座らせて絵本を読ん
でくれた。
「これ見てごらん」
 ある日、邦夫は本棚の一番上に隠すように
置いてあった本をあやに見せた。
 そこには極彩色の写真が写っていた。
「おとなはこんなことをするんだよ」
 幼いあやにはよく分からなかったが、あや
の頬にしっかり自分の頬を押しつけ、くいい
るように写真を見つめる邦夫に、よほど大事
な本なのだろうと感じた。
 そして、本を読んでもらっている内に、気
持ちよくなって眠ってしまうことがよくあっ
た。
 あれは誰の膝の上だったんだろう。
 邦夫だったのか、叔父だったのか。
 そして、この家に出入りしなくなったのは
何故だったんだろう。
 
「あの子、あやちゃんの小さい頃にそっくり
だね」
 いつの間にか、邦夫の膝の上には娘のゆな
が座っている。

発表:平成14年(2002)3月関西座会/初出:「短説」2002年6月号/再録:「短説」2003年5月号〈年鑑特集号〉*2002年の代表作選出作品〕
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