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2008年2月10日 (日)

短説:作品「発表会」(根本洋江)

   発表会
 
            
根本 洋江
 
 さとは、孫の典子のバレー発表会に呼ばれ
た。遅れない様に早目に家を出る事にした。
 会場では、息子が待っていて席をどうする
かと聞かれた。初舞台を見るには一番前が良
いと思い、一寸回りを気にしながら座わり、
渡されたプログラムを開いた。
 典子の出番の所には、赤い線が引かれてあ
った。さとはじっと緞帳の上がるのを待った。
 典子は見事に踊ったと、さとは満足した。
舞台裏を訪ねたさとに、典子が言った。
「おばあちゃんを見つけちゃった」
 さとは、典子の邪魔をしたのではと驚いた。
次の年、発表会の誘いの電話口で典子が、
「八日の日よ、今度は一番前にいないでね」
 あの時、目と目が合った気がしていた。や
はり、嫌だったに違いない。
〈ごめんよ〉
 今度は、帽子を被って中程に座ったさとは、
典子の踊る姿に見入った。
 舞台裏を訪ねたさとに、典子が言った。
「典子、おばあちゃんを探しちゃった」
「ええっ、まあ…、真ん中に居たのよ」
 さとは、思わず両手で典子の肩を撫でた。
 典子は五年生になって、本格的に、トウシ
ューズを履いて踊ると、嫁さんから連絡があ
った。さとは四年ぶりに発表会に出かけた。
今年はどの辺に座ろうかと迷った。
 目が霞んで来ているし、中央前から五番目
に決めた。プログラムを見ると役がついてい
た。そして一番小さいのが典子ですと、嫁さ
んのメモ書きがあった。
 踊る典子は、大人びた様に感じた。
 舞台裏を訪ねたさとを、ちらと見た典子は、
「失敗しちゃった…」
 と言って目を伏せた。さとは何も言わず、
笑顔で、胸の前に花束を差し出した。

〔発表:平成16年(2004)9月藤代日曜座会/初出:「短説」2004年12月号/WEB版初公開〕
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