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2008年2月20日 (水)

短説:作品「深層海流」(普川元寿)

   深層海流
 
            
普川 元寿
 
 乱次郎は羽太郎を連れてペットショップに
行った。オウムが面白い。店員が教え込んだ
のだろう、「いらっしゃいませ」「かわいい
なあ」はいいとして「どろぼう、どろぼう」
はどうなってるの? ペットを盗もうとして
見つかり、逃げる泥棒を大声が追いかける。
その声があまりにショッキングだったので、
オウムが覚え込んでしまったのだろう。一度
覚えてしまった言葉は消去できないから売る
時は値引きかなあなどいろいろ想像する。で
も息子の為に曰く付きのオウムはやめて九官
鳥にした。
 
 乱次郎は売れない画家。いや腕やセンスは
いいのだが売るための絵を描かないので手元
不如意なのだ。自分に厳格なのである。
 終日アトリエに居ることが多い。従って九
官鳥ハッチャンに話しかけることもあるし、
独り言をハッチャンにみな聞かれてしまう。
「これだ!」はハッチャンの十八番のセリフ
である。
 
 このところ乱次郎にもカルチャーセンター
の講師の口があり、週に一度は家を空ける。
妻の修子はそのチャンスにアトリエ掃除だ。
 
 アトリエでハッチャンがなにか喋る。
 修子が聴く。
一月九日「ばかだなあ」(沈欝な声で)
〃一六日「ばかだなあ」(やや暗い声で)
〃二三日「ばかだなあ」(暗さ明るさ半々)
〃三〇日「ばかだなあ」(少し明るい声で)
二月七日「ばかだなあ」(明るく自己肯定的
            に)
 
 もうすぐ春である。

発表:平成17年(2005)3月通信座会/初出:「短説」2006年6月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2007.2.21〕
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