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2008年3月27日 (木)

短説:作品「並木道」(川嶋杏子)

   並木道
 
            
川嶋 杏子
 
 プラタナスの葉が烈しく舞い落ちて来る。
東京を離れて、もう何世紀も経つ。
 この並木道が好きだったので、バスに乗ら
ず歩くことにしたのだが、枯れた大きな葉が
無数に降って来るのに当たると一寸痛い。
 それにやはり迷ってしまったようだ。目的
の駅になかなか行きつけない。
 
「馬屋ならあいています。こちらへどうぞ」
 来年小学校へ上がる孫は、宿屋の主人の役
だった。食事の前にお祈りをするこの保育園、
園児達が毎年クリスマス会に「聖劇」を演じ
る。次の幕では小さなマリヤ様が「赤ん坊」
を抱いていた。
 レミちゃんは踊りながら歌を歌う「星」の
役だった。会のあと彼女のおばあちゃんを探
した。ここで何度か出会っている。やはり催
しのある日に遠くからやって来る。
 節分の時は「おじいちゃんおばあちゃんと
鬼の面を作ろう」という会だった。未熟児だ
ったのでまだ小さいのだと、レミちゃんのお
ばあちゃんは語った。
「レミちゃんすばらしかった。歌も上手で」
 少し風の出た園庭で、私達は立話をした。
「もうお会いしないかもしれないけれど」
 二人の祖母は、そして別れの挨拶をした。
 
 プラタナスの葉があとからあとから散って
来る。それほど強風ではないが、もうすっか
り枯れた葉は枝から離れるばかりになってい
たのだろう。
 駅舎が見えて来た。
 何世紀も経っているわけではない。
 わずか数十年のことだ。
 都会には高いビルが幾つも建ち、道巾も広
くなり、並木に葉は繁り葉は落ちて行く。

〔発表:平成18年(2006)1月上尾座会/初出:「短説」2006年1月号/WEB版初公開〕
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