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2008年9月18日 (木)

短説:作品「尾売り横丁」(すだとしお)

   尾売り横丁
 
           
すだ としお
 
 暗い道を折れ曲がり、小さなネオンの門を
くぐり抜けると、尾売り横丁がある。尾を売
れば、生えるまで出てくる事は出来ない。生
えたらまた売る事になるのかもしれない。
「旦那、尾売りですかい?」
 顔のひん曲がった男が、縮み上がっている
私の尾を見ながら、言った。うなずくと、男
は指さした。そこには、血の色をした尾切リ
台があった。尾を切るのが、その男の仕事だ
ったのだ。同じような顔をした男が何人も、
うろつっいている。台に尾を乗せ、目を閉じ
る。男の手が尾をつかむ。
「痛くなんかありませんぜ」
 そう言った途端に、斧が振り降ろされてい
た。尻にばんそう膏を張ってもらい、油紙に
包んだ尾を持って、横丁を歩いていく。もう
戻れない。尾を売れば、食い物には困らない
と聞いている。呼び込みに手を引っ張られて、
店に連れ込まれ、尾を売った。広間へ案内さ
れ、酒の用意された膳の前に座らされた。男
達が騒いでいる。一人になりたくて、そっと
立ち上がって、歩き出した。
「奥へいくにはまだ早過ぎます。もっと楽し
んでからの方がいいですよ」
 そう言われたにもかかわらず、奥へと歩い
ていった。部屋は幾つもあり、段々に小さく
なっていく。最後には人がようやっと横にな
れれるくらいの大きさの部屋になった。その
部屋へ入っていき、横になり、眠った。
「体ごと売るつもりになったんですかい。尾
なし人は泣き事は言えませんぜ」
 そう言う声が聞こえ、体が持ち上げられた。
あわてて、暴れようとしたが、手足が縛られ
ていた。
「この尾なし人からはいい冷汗が取れるぜ。
尾を切ったばかりだからな」

〔発表:昭和61年(1986)10月第14回東京座会/初刊:年鑑短説集(1)『旅のはじまり』1987年7月/再刊:すだとしお短説集『やわらかい鉛筆』1995年3月/WEB版初公開〕
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