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2008年9月 1日 (月)

短説:作品「社交ダンス」(安村兆仙)

   社交ダンス
 
            
安村 兆仙
 
「クイッククイックスロー」
 週一回行われる社交ダンスの練習に、一郎
はいそいそと出掛ける。
 十数人いる会員は男女半々。いつも同じペ
アで踊る三組は夫婦か。
 あとは一郎と同じく独り身らしい。
 老人クラブ主催のせいか、最も年下の者で
も還暦より若い人はいない。
「さあ、始めますから適当に男女ペアになっ
て下さい」
 最初に言われて一郎が選んだのは、一番若
そうで椅麗な人。夫婦らしい人同志は手をと
りあっていて、他人の入りこむ余地はない。
 時々休憩をとりながらレッスンは続くが、
これ以来この人とはパートナーとなった。
(この人の名前は、住所は)と思ったが、何
故か気後れして直接きけない。
 休憩のとき隣にいた男性に尋ねてみた。
「あの方どなたかご存じですか」
 男性の言葉に仰天した。
「あれは私の家内です」
「えっ、奥さん。どうして奥さんと踊らない
んですか」
「別に……」
 さらに、次の言葉でまた仰天した。
「貴方、家内が気に入ったとみえて楽しそう
でしたね」
 浮気とか不倫したいということはないが、
気にいってないといったら嘘になるし、うき
うきしていたのは事実。
 まさか亭主が来ていて側で見ていたとは。
 軽快な音楽とともに再びレッスン。
 急にパートナーを変えるのは不自然だと思
い、また奥さんと踊ったが、側の亭主が気に
なって、ステップを問違えては相手の足をふ
んでばかりいた。

〔発表:平成14年(2002)2月関西座会/初出:「短説」2002年4月号/再録:「短説」2003年5月号〈年鑑特集号〉自選集/WEB版初公開〕
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