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2008年10月 7日 (火)

短説:作品「赤とんぼ」(道野重信)

   赤とんぼ
 
            
道野 重信
 
 雨が夕日を消したのだ。
 だから雲が出てるのだ。
 アミと虫カゴがぼくのタカラモノなのだ。
 今日も赤とんぼをつかまえるのだ。
 
 父ちゃんは焼酎を飲んで泣くのだ。
 男は涙を見せてはいけないのだ。
 それでも泣くほどつらいときは、子どもは
見ちゃいけないのだ。
 だから、ぼくは出かけるのだ。
 
 ぼくの家には傘がないのだ。
 だから濡れても平気なのだ。
 いつも赤とんぼが舞っている、坂の上のお
寺に行くのだ。
 
「ぼく、どうしたの?」
 と、声がしたのだ。
 ふりかえると、もも色の傘をさした女の人
が立っているのだ。
 ぼくはどうもしていないので、なんて答え
ていいかわからないのだ。
 坂をかけあがって、お寺の土塀によじのぼ
ったのだ。
 そして、アミを旗のよつにふったのだ。
 早くどっかに行ってほしいのだ。
 あんたはぼくの母ちゃんじゃないのだ。
 
 もも色の傘が遠ざかって行くのだ。
 それで、ぼくはやっとアミをふるのをやめ
るのだ。
 
 今日も赤とんぼをつかまえるのだ。
 ぼくは母ちゃんを待っているのではないの
だ。
 赤とんぼをさがしているのだ。

〔発表:平成18年(2006)3月通信座会/2006年5月号「短説」/再録:「短説」2007年6月号〈年鑑特集号〉*2006年の代表作「人」位選出作品/WEB版初公開〕
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