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2009年2月

2009年2月21日 (土)

短説:作品「初めの一歩」(館としお)

   初めの一歩
 
            
館 としお
 
 昨年度の業績の分析が終わったと思ってキ
ーボードから手を離した時、目の前に見えた
のは天井の蛍光灯だ。目を下に向けると書類
が立て掛けられた八人分の机が見える。私の
机はニメートル位の高さにあって、頭が天井
に当たりそうだ。
 ワープロの電源コードは一メートル半位だ
ったが、コンセントは外れていないのか、私
が作った報告書の一部が写っている。
 夢だと思って頬をつねったら痛い。何が起
こったのか分からなくなった。今日の朝食は
いつものと同じ、パンとコーヒー、それにト
マトとレタス、チーズを一切れだった。
 体を少し持ち上げて椅子の上に落としてみ
たが、体は少ししか上げられなかった。椅子
と机は少しだけ上下に揺れたが、高さは変わ
らなかった。
 次に体を左右に揺すった。椅子と机も左右
に揺れた。体を止めると椅子と机も止まった
が、高さは変わらなかった。私は数分間その
ままの状態でいた。
 周りを見回しても、誰もいなかった。誰か
が来たら降ろして貰おうと思ったが、誰も現
れる様子はない。八人の部下は皆出払って、
いつ帰って来るのかは分からない。私一人に
なってしまった。
 しばらくそのままにしていたが、このまま
では仕方がないので、椅子から離れて歩くこ
とにした。初めの一歩をそっと踏み出すと、
空中に浮かんで足が止まった。そのままもう
一歩歩いた。また浮かんで止まった。私はそ
のまま歩いて部屋から出た。
 部屋を出てから気づいたことだが、伺じ高
さを歩いている人が他にもいた。皆普通に歩
いている。私は今でも慣れないので、一歩ず
つ踏み締めて歩いている。


〔発表:平成8年(1996)5月通信座会/初出:「短説」1996年7月号/〈短説の会〉公式サイトupload:2005.4.20〕
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2009年2月18日 (水)

インターネット不通

 先々週の土曜から、インターネットに繋がらない状態が続いている。もう十日あまりになる。
 回線は、@niftyのADSLニュースタンダードコース(50M)、接続業者はアッカ・ネットワークス。「ADSL接続サービスは『ベストエフォート型』のサービスです。 NTT収容局からの距離や、ご利用になる場所の周辺環境などによって接続時の速度は変わります」ということは、否応もなく了解済みで、以前も時々回線が繋がらなくなることがあったが、こんなに長期で繋がらなくなったのは初めてだ。
 もともと我が家はNTT収容局からの距離が2Km近くあり、ADSLには微妙な環境で、普段からとうてい50Mの速度は出ておらず、ワンランクかツーランク下のコースと同じレベルであったのだが、ネットへの接続には不自由していなかった。それが先々週の土曜の夜から突然……。
 その日、春一番が吹いた。我が家の前の細い道を挟んだ向かいの空き地で、何の工事かわからないが、電気工事っぽい車輛が停まっていて、半日以上作業をしていた。うちの電話回線を引き込んでいる電柱に何か細工をしていた形跡は確認できないのだが、あれが原因ではないかと睨んでいる。
 ともかく、いらいらも限界を超えた。@niftyやアッカに問い合わせるにも平日の営業時間帯では時間が取れない。NTT収容局からの距離も、直線ではなく、先の工事が原因でなくても、途中の環境が変わりそれが障害になっているのであればどうすることもできない。
 ただし、我が家の離れに引き込んでいる回線では、同じADSLのしかもエントリーコース/イー・アクセス(960k)にもかかわらず、ちゃんと繋がっているので、まったく不可解なのだが……。
 それで、もうクレームを言うのも面倒なので、昨日、KDDIの@nifty ひかりone ホームタイプ ギガ得プランに申し込んだ。

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2009年2月 2日 (月)

短説:作品「丸亀うどん店」(相生葉留実)

   丸亀うどん店
 
           
相生 葉留実
 
 暖簾を下げるために戸口に近づくと、客が
戸を開けた。女が入り、男がつづいた。
「はい、いらっしゃい、こちらへどうぞ」
 と奥の席に案内した。
 私はすぐに熱い茶を出す。女が一気に飲む。
「天麩羅うどん二つ」
「天麩羅二つ」奥にいる妻に声をかけた。
 調理場に入って、ガスをひねる。入り口の
戸が少し開いた。鳥打帽の男Kだ。妻にコン
ロの火を指さして戸ロヘいき、外へ出た。
「今入った客ね。女は、スパイだから気をつ
けろ。ほら、手帳を出している」
 Kはそれだけ言うと、くるりと背を向けて、
去った。
 調理場では、うどんがあつあつに仕上がっ
ている。海老天をのせて熱いだしをたっぷり
とかける。いつもならお盆に箸と、唐辛子を
添えるのだが、小瓶は棚においた。
「おまたせしました」
 客は余程腹が空いていたらしい、うどんを
口いっぱいにほうばる。
 見計らって、唐辛子の瓶を持っていく。
 丼鉢には海老天が残っている。東京もんは、
先に天麩羅を食べる。うどん好きの関西人は
矢も楯もたまらなくなって、うどんを先に平
らげる。
 お品書きを下げようとすると、
「あっ、見せてください」
「なにか注文でも」
「いえ、もうお腹一杯」
 手帳にメニューと値段を写している。
 支払いを済ませ立ち去った。
 すぐに製麺所へ電話をした。
「もしもしうどんを先に食べました」
 次は天麩羅屋に掛ける。
「もしもし、海老天を尻尾から食べました」


〔発表・初出:平成20(2008)年5月号「短説」(巻頭招待席)/WEB版初公開(追悼)〕
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