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2009年2月 2日 (月)

短説:作品「丸亀うどん店」(相生葉留実)

   丸亀うどん店
 
           
相生 葉留実
 
 暖簾を下げるために戸口に近づくと、客が
戸を開けた。女が入り、男がつづいた。
「はい、いらっしゃい、こちらへどうぞ」
 と奥の席に案内した。
 私はすぐに熱い茶を出す。女が一気に飲む。
「天麩羅うどん二つ」
「天麩羅二つ」奥にいる妻に声をかけた。
 調理場に入って、ガスをひねる。入り口の
戸が少し開いた。鳥打帽の男Kだ。妻にコン
ロの火を指さして戸ロヘいき、外へ出た。
「今入った客ね。女は、スパイだから気をつ
けろ。ほら、手帳を出している」
 Kはそれだけ言うと、くるりと背を向けて、
去った。
 調理場では、うどんがあつあつに仕上がっ
ている。海老天をのせて熱いだしをたっぷり
とかける。いつもならお盆に箸と、唐辛子を
添えるのだが、小瓶は棚においた。
「おまたせしました」
 客は余程腹が空いていたらしい、うどんを
口いっぱいにほうばる。
 見計らって、唐辛子の瓶を持っていく。
 丼鉢には海老天が残っている。東京もんは、
先に天麩羅を食べる。うどん好きの関西人は
矢も楯もたまらなくなって、うどんを先に平
らげる。
 お品書きを下げようとすると、
「あっ、見せてください」
「なにか注文でも」
「いえ、もうお腹一杯」
 手帳にメニューと値段を写している。
 支払いを済ませ立ち去った。
 すぐに製麺所へ電話をした。
「もしもしうどんを先に食べました」
 次は天麩羅屋に掛ける。
「もしもし、海老天を尻尾から食べました」


〔発表・初出:平成20(2008)年5月号「短説」(巻頭招待席)/WEB版初公開(追悼)〕
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