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2010年2月12日 (金)

短説「悦子」西山正義

   悦 子

            
西山 正義

 関東ローム層は霜柱が立ちやすい。
 悦子はその日取引先へ直行となり、いつも
より遅く家を出た。ちょうど小学生の登校時
刻で、悦子の前を後ろをランドセルが行く。
このあたりにはまだ近郊農家の畑が、住宅地
のあいだに点在している。
 今年の冬は冷え込みが厳しい。畑は一面、
霜柱であった。むかしの農道が駅への近道に
なっていた。そこは一部舗装されておらず、
垣根沿いには、やはり霜柱が立っていた。
 小学生がそれを踏んでゆく。わざと音を立
てて踏んでいるのである。
「楽しそう」
 悦子は、手袋に白い息を吐きかけながら、
そう呟いていた。
「私もしてみたい」
 いつもはよけて通っていたのに。しかし、
ハイヒールでは……。
 悦子は二十九歳になっていた。短大では珍
しい法律科を出、光学機器メーカーに入社し
た。最初は一般職であったが、企画能力を買
われ、総合職的な仕事にも就くようになった。
しかし、キャリアでもお茶汲みでもない中途
半端な立場で、あまり居心地がいいとはいえ
ない。OLとしては生真面目すぎるきらいが
あり、ガードが堅そうに見られた。
 日曜日。悦子は早く起きた。洗顔と歯磨き
だけで、すっぴんのまま外へ出た。ジーンズ
にスニーカーを履いていた。
 見事にせり上がった霜柱の断面が、朝日に
輝いていた。悦子は踏んだ。音を立てて。ゾ
クッとする。一歩二歩と歩く。足踏みしてみ
る。おもしろい。もう一度。靴が滑って、転
びそうになる。可笑しかった。声をあげて笑
った。いや、笑ったつもりであった。悦子は
天を振り仰いだ。冬の日が眩しかった。


〔発表:平成18(2006)年2月第126回通信座会~3月ML座会/2006年5月号「短説」/WEB版初公開〕
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