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2010年3月

2010年3月27日 (土)

仕事に追われ…

 月末が恐ろしい。気がつくとあっと言う間にひと月が経ってしまい、季節も移り変わっている。その時々で多少の変化や場合によっては“事件”と呼んでいいようなことがあったとしても、基本的のはその繰り返しで、いつの間にか年をとっているのだ。肉体の凋落はもはや隠しようがなく……。
 明日からソフトボールの春季大会が始まる。それだけが楽しみだ。

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2010年3月23日 (火)

詩人・堀内幸枝さんのこと

 春になり桃の花が咲くと、堀内幸枝さんを思い出す。インターネットで調べるのが怖くもあった。堀内幸枝さんは大正九年(一九二〇)のお生まれ……。
 調べてみると、昨年一月に、九百ページに及ぶ『堀内幸枝全詩集』が沖積舎から刊行されていた。それまでの詩業の集大成である。毎日新聞(二〇〇九年二月十五日)東京版の朝刊の「今週の本棚」で湯川豊氏が書評を書いている。それによると「ご健在」とのこと。ほっとした。
 それにしても大部な全集である。
『村のアルバム』(昭32・的場書房)
『紫の時間』(昭29・ユリイカ)
『不思議な時間』(昭31・ユリイカ)
『夕焼けが落ちてこようと』(昭39・昭森社)
『夢の人に』(昭50・無限社)
『村のたんぽぽ』(平3・三茶書房)
『九月の日差し』(平9・思潮社)
『随筆 市之蔵村』(昭60・文京書房)
 全七冊の詩集と一冊の随筆集が網羅されている。戦前の「四季」への投稿時代から数えれば途方もなく長い詩歴である。
 まだこの全詩集は手にしていないのだが、この度、詩集としては六番目の、しかし『村のアルバム』に直結する詩集『村のたんぽぽ』を読んだ。
 この詩集は、「“戦時下ではあったが、それでも私の若い日の心に落ちた翳みたいなもの――”/私はそれだけを一冊にまとめたいと、その後いくつかのの詩集を編みながら、このテーマだけを別の袋に入れてきた」(あとがき)というもの。
 詩集冒頭の「不意の翳」3連「鳥」に以下のような詩句がある。


 ……   ……   ……
 妻となり 主婦となり 母となって 幾年
 知らず知らず私は妻らしく母らしく主婦らしくなり
 二十代 三十代 四十代と
 着物も動作も髪型も変わっていった
 
 だのにこの変化についてこない
 いつまでも私の中に
 おきざりにされたまゝの少女がいる
 人前にもどこへも顔を出すことの出来ないこの少女は
 いつもこの屋敷の柿の木のてっぺんの
 いずれの梢かに止まって飛び去らない
         (堀内幸枝「不意の翳 3 鳥」)<

 初出は不明だが、おそらく詩誌「葡萄」に一九六〇年代後半から七一年頃までに発表されたものだろう。小川和佑先生の『詩の妖精たちはいま』(昭和四十七年十月・潮出版社刊)に、「近作」として言及があり、『村のアルバム』の世界に次ぐ「新しい詩境を見せた」と評されている。
 これこそ、“永遠の少女”を永遠の少女たらしめる本質であり、原点であり、そして“翳”の部分であろう。いや、この翳こそが本質である。どうしようもなく芸術家たらしめてしまう暗黒の魂!
 何度でも言おう。堀内幸枝さん、いつまでもお元気でいてください。

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2010年3月 9日 (火)

短説「ミルクココア」小滝英史

   ミルクココア

            
小滝 英史

 モコちゃん、そんなに笑ってはいけないよ。
あまり笑いすぎると泣いてるみたいだから。
僕の胸は苦しい。
「――そうよ。悲しすぎて泪も出なかったわ」
 モコちゃんの透き通った声。アパートの前
の空き地で野球をする子どもたちの歓声が連
れ去ってしまう。毎日がじりじりと暑かった。
冷蔵庫もない一間っきりのアパート。夕風に
やっと生き返るような生活。冷たいものは自
動販売器。でもあまり陽差しが強いと、外に
いくのがおそろしい。貧乏は恐ろしい。そん
なとき、モコちゃんはあまーいミルクココア
を作る。沸騰したては熱くて飲めないからと、
把手のついた鍋を、水を溜めたボールに浸け、
水道を細くして冷やすことにしたんだっけね。
僕は早く飲みたくて、台所へいってようすを
見る。そして冷め具合を見るんだけど、生ぬ
るい水道水じゃなかなか冷えない。それで、
つい蛇口をゆるめてしまう。すると、増した
水の浮力で小さな鍋は荒波の上の漂流ボート
のようにゆらゆらとなって、水道の水が鍋に
入ってしまう。するとモコちゃんは「駄目ね」
といいながら鍋の位置を戻す。が一度バラン
スを失った鍋はモコちゃんの手をすり抜け、
さらに傾いてボールの水が縁から入ってしま
う。こんなに水が入ったら、せっかくの甘い
ミルクココアも水っぽくて飲めやしない。そ
れじゃ、というので、床に置いて自然に冷め
るのを待つことにする。が、床に置いたとた
ん、僕の足が、赤い糸に絡みつかれたように
鍋の把手を蹴り、その弾みで回転した鍋を掴
もうとして伸ばしたモコちやんの手が、ズボ
ッとミルクココアの中に嵌まりこむ。そのま
ま鍋は倒れ、とうとうミルクココアは、全部
床の上にこぼれてしまった――。
 そしてモコちゃん、笑ったんだっけね。


〔発表:平成10年(1998)6月東京座会/初出:「短説」1998年8月号/再録:「短説」1999年5月号〈年鑑特集号〉*1998年の代表作選出作品/〈短説の会〉公式サイトupload:2004.5.6〕
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