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2011年1月 7日 (金)

短説「鱧」樋渡ますみ

   

           
樋渡 ますみ

 絹子はん。烏丸の楠田はんから鱧やて魚茂
から届いたえ。いやぁ、ええ鱧やわ。夏は、
やっぱしこれやねぇ。生麩の炊いたん有るし、
はよ食べて宇治川の花火見に行きよし。雪江
はんかて千代子はんかて出かけたえ。
 へえ、おおきに。…けど、うちよろしおす。
うちほんまは花火きらいや。美しほど終うと
淋しなって一遍に辛気臭うなるよって。
 へえぇ。そないなもんかいな。そやお礼の
電話入れとき。ええ旦さんや、お金持で男前
で気配りがようて、あんたにぞっこんやし。
 …ぞっこんて、何え? 惚れてるって、何
え? 一昨日お座敷で楠田はん、奥様を空気
のよなもんやて。人さん空気無うたら生きら
れひん。いの一番の誉め言葉ぬけぬけと言わ
はって…。男はんは狡いわ。一番大切なんは
お蚕ぐるみにして、ちゃあんと仕舞うてはる
んや。さやから、祇王さんかて佛御前かて早
々に仏門に入りはってん。うちよりずっと若
うて色恋の果敢なさ悟りはって…。宇治川の
花火と一緒や。あほらし。
 絹子はん、あんたほんま鱧みたいやなぁ。
白うて美しいて美味しいて…。げど油断して
食べとったら小骨が喉に刺さってチクチクし
て敵んのや。…そやし、生きとう中はするり
と逃げていきよるしな。
 うふ。そうかも知れへん。おかあはん上手
い事言わほるわ。流石上七軒志づ乃の女将や。
梅肉作るん手ったお。ああ風鈴の音、ええね
え。ほんまに涼しなる様な気ィするもん。こ
の、気ィするいうのんが大切なんよ。ほんま
に涼しわけや無うても…騙し上手や。
 またそないな、どこぞのおじゅっさんよな
事言うて。仕様むないお人や。
 ほんまやのうても、ほんまやて気ィにさし
て欲して言うてるだけや。……女子やもん。


〔発表:平成19年(2007)8月関西座会/初出:「短説」2007年11月号/WEB版初公開〕
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