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2011年4月

2011年4月18日 (月)

短説「連凧」檜垣英行

   連 凧

            
檜垣 英行

 三月の半ばのことであった。私はいつもの
とおり利根川の堤へ散歩に出かけた。そこで、
ダンボール箱を側に置き草むらに座っている
一人の人に出会った。箱の中には数十枚の凧
が入っているのが見えた。私が興味を持った
のは、この季節に、しかも白髪交じりの男と
凧の組み合わせであった。
「凧揚げですか」と声を掛けた。
「いやあ、そう思って来たんですが…」と、
照れながら応えた。
「風を待っているのですが、今日は全く風が
ありませんなぁ」と立上がり、遠くを見回し
た。傍らの枯れたススキは微動だにしない。
「子供達に一つずつ作らせ、連凧に仕上げた
ものです」
「なるほど、連凧ですか」
「もう、十年も前のことです。教室の片隅に
取っておいたのですが、私もこの春で退くこ
とになりましたので…」と凧を取り出しなが
ら一枚ずつ開いて眺めた。
 凧は破れたところを修理したらしく、その
部分が際立って白く見えた。
 どの凧にも、『希望』という文字がはみ出
さんばかりの大きさで書かれ躍っていた。そ
れぞれに子供達の名前があった。中には六年
二組とクラス名から書いているものもあった。
最後の凧には、小さくまとまった大人の文字
が見えた。
「全部で四十六枚あります。始末する前に、
もう一度、大空を泳がせてやりたいと思いま
して…」と心の内を明かした。
 私は、十年もの間、保管してきた理由を確
かめたいと思ったが口には出さなかった。
 再び四十六枚の凧が大空を泳いだ時、子供
達の歓声が聞こえてくるのではないかと、私
もそこへ座って風を待つことにした。


〔発表:平成7年(1995)6月第16回東葛座会/初出:「短説」1995年9月号(短説創立10周年記念号)通巻122号/〈短説の会〉公式サイトupload:205.3.24〕
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2011年4月16日 (土)

ホームページ更新

 昨日、短説の公式サイトを更新(芦原修二氏の「短説逍遥」を三編追加)し、今日は「西向の山」の文学散歩のページに「立原道造の風信子荘と別所沼の神保光太郎詩碑」を追加しました。
 後者はもともとこのブログにほぼリアルタイムでアップしたもので、それを若干修正のうえ再構成したのにすぎないのですが、結構手間がかかりました。
 さて、来週から忙しくなります。もしかしたら、家でのんびりできる最後の週末(当面の間の)になるかもしれません。明日はソフトボールの春季大会二回戦で、趣味に思い切りいそしめるのも明日までかも。

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2011年4月13日 (水)

岸田衿子さん死去

 詩人で童話作家の岸田衿子さんが4月7日にお亡くなりになったというニュースが入ってきました。氏はもちろん、劇作家・岸田國士の長女で、女優・岸田今日子は実の妹。
 82歳だったそうで、ウィキペディアで調べてみると、生まれは1929年1月5日ということですから、昭和4年生まれ、つまり小川和佑先生のひとつ上。小川先生の『詩の妖精たちはいま』では比較的若い女流詩人の代表だったのですが……。また一人、戦後の詩人が逝ってしまいました。
 私にとっては北軽井沢の抒情詩人というイメージなのですが、一般には、中谷智恵子さんの絵で福音館書店の月刊誌「こどものとも」に発表した絵本『かばくん』が有名ですね。いやもっと広くには、アニメの中でも名作中の名作「アルプスの少女ハイジ」や「フランダースの犬」の主題歌の作詞者としての方が知られているかもしれません。そういえば、妹はムーミンの声でしたね。

  待つことを秋の道でおぼえたとき
  風は一つ一つの草の実に咲き
  野は一日一日の夕焼を蔵った
  私はそうして秋を数えていた

       (岸田衿子「忘れた秋」・へ 第一連)
 
 それにしても、戦後の二大詩人・谷川俊太郎と田村隆一の元妻というのは凄いですね。ちょっと想像を絶するものがあります。
 謹んでご冥福をお祈り申し上げます。合掌

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2011年4月 7日 (木)

春になって…

 短説の会の皆様、ご無沙汰しております。
 って、短説の会のみなさんは一体どこへ行ってしまったんでしょうかね。もともとインターネット上にはあまりいないわけなんですが……。私も音信不通のようなものですし。
 
 まずは、何をおいても、この度の東日本大震災に被災された皆様に心よりお見舞いを申し上げます。
 言葉もない惨状で、関東でも相当の被害がありました。短説の会員が多く住んでいるのは茨城や千葉でも比較的内陸部ですが、それでも液状化現象が出たところもあったようです。
 ご無事をお祈りいたします。
 
 さて、ようやく東京でも桜が満開になりました。地震や計画停電の影響だけでなく、今年は冬が長かったような気がします。「自粛」も行き過ぎると経済が停滞し、それ以上に気分が低迷します。春になりました。それは素直に寿ぎましょう。
 
 本日、一月に前の記事に書いた「縦書き文庫」に続いて、「小説家になろう」という小説投稿サイトに登録しました。「縦書き文庫」同様に、投稿した小説を縦書きで表示することができるのですが、さらに、「タテ書き小説ネット」と連携していて、自動でPDF化してくれます。
 これがちょっと凄いというか便利というかで、アクセスアップが目的ではなく、自動PDFファイルを生成したくて登録してみた次第です。つまり、自分自身のアーカイブのために。なので、のんびり更新の予定。
→「西向の山のページ
 
 明日は四まわり目の記念すべき誕生日なのですが、首尾よく行けば、今後の人生というと大袈裟ですが、少なくとも生活が大きく変わることになるかも……。

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