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2011年9月 7日 (水)

草原の輝き……

 もう二ヶ月以上前の六月下旬のことだが、BSでサスペンス・ドラマの再放送を観た。西村京太郎の十津川警部シリーズだ。タイトルは忘れてしまった。
 テレビの十津川警部は、初代の三橋達也を皮切りに、単発物も含めると実に十六人の俳優が演じている(というのは今調べて知った)のだが、それは、私が一番馴染みのあるTBS系の十津川警部=渡瀬恒彦、亀さん=伊東四朗ではなく、テレビ朝日系の十津川=高橋英樹、亀さん=愛川欽也の方だ。
 もちろんトラベル物なのだが、どこが舞台だったかも忘れてしまった。ともかく、犯人は十津川警部の大学ボート部の友人なのだが、その友人が愛唱していたワーズワースの詩句が最後に効果的に使われている。
 ぶっちゃけ、それに泣けてしまった。ドラマ自体は、しごく常套的なサスペンスで、二時間枠のお決まりの作りなのだが、十津川が最後に犯人の友人に向かって言うその詩句にぐっときてしまったのだ。

草の輝くとき 花美しく咲くとき たとえそれが還らずとも 嘆くなかれ

 これは、イギリスの湖水地方をこよなく愛したロマン派の詩人、William Wordsworth (1770-1850)の有名な詩の一節だが、十津川警部とその大学時代の友人がこの詩を愛唱していたというのは、むしろ60年代初頭アメリカの青春映画の秀作『草原の輝き』の影響ではないだろうか。
 原題「Splendor in the Grass」は、そもそもワーズワーズのこの詩をモチーフにしたウィリアム・インジの原作をエリア・カザンが映画化したものである。主演はナタリー・ウッドとウォーレン・ビーティ。1961年11月封切り。
草原の輝き 花の栄光 ふたたび それは還らずとも 嘆くことなかれ
その奥に秘められし 力を見出すべし

Though nothing can bring back the hour of splendor in the grass, of glory in the flower, we will grieve not.
Rather find strength in what remains behind.


 この映画は、日本でも村上春樹をはじめある世代の人には相当な影響を与えたようである。またアメリカ人もこのイギリスの詩が好きなようで、ロバート・レッドフォード監督の「A river runs through it」(1992)でも、父と子がこの詩を交互に朗読する。
 この十津川警部ドラマでは、「その奥に秘められし 力を見出すべし」の部分は語られないのだが、私には十分だった。
「嘆くなかれ」と敢えて言っているのだがら、やはり嘆かずにはいられないということだ。「草の輝くとき、花美しく咲くとき」、嗚呼、それはやはり二度と還らないことなのだ。

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