短説「休みの日に」西山正義
休みの日に ・ 西山 正義 ・ ストーブを出した。急に寒くなってもいつ でも使えるように。去年の灯油がまだ少し残 っていた。試運転すると、あの独特の匂いが 部屋を満たした。 あれほど暑い暑いと言っていた平成二十三 年の夏もいつの間にか過ぎ、秋も深まりつつ ある。恐ろしいスピードで月日が流れる。 徹夜仕事明けの午後。妻は墓参りで仙台へ 行き、息子は高校の修学旅行で沖縄に行って いる。娘は大学へ。授業が終わっても、サー クルの活動で帰りは遅くなる。要するにお父 さん一人の午後なのだった。 それが十月二十七日のことで、はや二週間、 立冬も過ぎた。十一月に入って暖かい日もあ ったが、今朝はストーブを点けた。勤務のシ フトが明日に延び、今日は休みになった。 息子は野球部の「朝練」で早くから出掛け た。娘も、つい最近始めたセブンイレブンの アルバイトが早朝から三時間あり、帰宅する なりすぐに大学へ向かった。 その娘だが、あさって十二日、二十歳にな る。娘が生まれたのは、義父が六十歳で突然 亡くなった、その二ヵ月後だった。あれから 二十年。初めて対面した産院の部屋。生まれ た頃の写真を見、その頃のこと、そしてそれ からのことを思えば、月並みだが「感無量」 という言葉しか思い浮かばない。 娘が生まれ、まだ小さい頃に、将来、こう もしたいああもしたいと思い描いたこと、そ の何パーセント出来ただろうか。娘が高校生 ぐらいになったら、格好いいオヤジとして美 術館巡りなどをしたいと思っていたものだ。 いま二十歳を迎えるにあたり、尤もらしい 訓戒を垂れる気はないが、何か特別なことを してやりたい。そう思うが、妙案が思い浮か ばない。いずこも同じ親心があるばかりだ。 |
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コメント
久しぶりに短説を書きました。
「創作」とはいえないような身辺雑記ですが……。
ブログなどの呟きや日記などとどう違うのか。
「短説」の形にする必要があるのかも疑問ですが、
「短説」という形にすることによって、
書き手の側とすれば、意識が異なってきます。
投稿: 西山正義 | 2011年11月10日 (木) 12:45