久しぶりに太宰治
大学の先輩である「コロンブドール」氏のブログに「大菩薩峠 霊験あらたなり」が数回にわたってアップされている。その写真を見て、その自然の光景に「驚嘆」していた私に、太宰治の文章が飛び込んできた。
「縦書き文庫」に新着エントリーされていた「貪婪禍」 である。初出は「京都帝國大學新聞」第三百十七号(昭和15年8月5日発行)。タイトルだけ見て、なんとなく予感があったので、読んでみた。太宰の文章を読むのは実に久しぶりだった。
やっぱり太宰はすごい。いいなと思ってしまう。そしてドキリとさせられる。「フロべエルの嘆き」を引用しながら、次のように言う。
……私が旅に出て風景にも人情にも、あまり動かされたことのないのは、その土地の人間の生活が、すぐに、わかつてしまふからであらう。皆、興覺めなほど、一生懸命である。 溪流のほとりの一軒の茶店にも、父祖數代の暗鬪があるだらう。茶店の腰掛一つ新調するに當つても、一家の並々ならぬ算段があつたのだらう。一日の賣上げが、どのやうに一家の人々に分配され、一喜一憂が繰り返されることか。風景などは、問題でない。その村の人たちにとつては、山の木一本溪流の石一つすべて生活と直接に結びついてゐる筈だ。そこには風景はない。日々の糧が見えるだけだ。
素直に、風景を指さし、驚嘆できる人は幸ひなる哉。
この洞察、いや、感受性と言った方がいいだろうは、何かを突き刺すものがある。そして、哀しくなる……。
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