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2012年1月30日 (月)

短説「娘の旅立ち」西山正義

   娘の旅立ち
 
            
西山 正義
 
 旅立つ娘に、いったい何んと言ったらいい
のか――。昨平成二十三年の十一月で二十歳
になった。この一月に成人式を迎えた。その
娘がフランスに留学する。留学といっても、
娘が通う大学が主催する「海外現地実習プロ
グラム」による短期の語学研修であるが。
 出発は明日である。一月三十一日から二月
二十六日までの一ト月に満たない短期留学。
今では驚くに足らない。三十年前、私の高校
でもアメリカへホームスティがあったくらい
だ。旅立ちだなんて言う大袈裟なものではな
い。ただ、東京生まれの東京育ちの者にとっ
ては、大学進学などでの“上京”体験がない
ので、やはり旅立ちと言えるかもしれないし、
されど渡欧だ。と、そう大きく構えてしまっ
ているのは親だけのようだ。
 一口にフランスと言っても広いわけで、パ
リは経由のみで、滞在先はトゥールである。
本土中部のアンドル=エ=ロワール県の県庁
所在地ということだ。バルザックの生まれ故
郷。高松市と姉妹都市のようだが、そこが日
本における愛媛県的な所なのか岐阜県的な所
なのかは皆目イメージがつかめない。
 スーツケースに入れたものはどうだ、手荷
物や貴重品はどうだ、書類は揃っているか、
連絡先や日程の控えをとり、何度も忘れ物は
ないか、わざわざエクセルでリストを作り、
チェックしてと、親父があれこれ指図し、本
人以上にテンションが上がっている。いや、
無理やり上げているといった方がいいかもし
れない。準備期間は充分あったのに、なぜも
っと早くになどと言いながら、直前になって
一番あたふたしているのは親父である。
 たぶんそれは、私自身が日々の仕事でテン
パっていて、娘のことに思ったように当たれ
ない苛立ちの反映なのであろう。

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コメント

2月10日午後4時半
語句を二箇所、推敲し訂正しました。

「高松市と姉妹都市のようだが、そこが日本における愛媛県的な所なのか」の「愛媛県」を「香川県」に訂正。
別にどちらでもいいのですが、高松は香川県だよなということで。
あえて間違えたままのほうがいいという説もありますが……。

それともう一つ。
これはどちらでもいいというものではありません。
たった一文字の違いで、微妙なニュアンスの違いに過ぎないようにみえるのですが、意味合いはだいぶ異なってきます。
最終段落の、「日々の仕事でテンパっていて」を、
「日々の仕事にテンパっていて」に変更しました。
「で」と「に」の違いだけです。
語呂的には前者の方が収まりがいいのですが、意味的には後者のほうがやはり真実だと思うので。

投稿: 西山正義 | 2012年2月10日 (金) 16:57

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