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2012年9月11日 (火)

夜の散歩 (「僕の原体験」1)

夜の散歩に出たんだ
晩飯の腹ごなしにね

四十五年も住んでいる町さ
目新しいものなんて何もないのに
いちいち感傷的になってしまうんだ

十代のころも
街を彷徨っては
感傷的になっていたけど
四十九の今は
その質が違うんだ
決定的に違うんだ

猫がいたんで
誘われて
お山公園に入ったのさ
正式な名称があるわけじゃないんだが
むかしから「山公」って言われている
団地の中の小さな公園だ

久しぶりに来たら
新しい遊具が設置されていた
ここ十五年ぐらいの間に
何度か整備改修されているが
全体のイメージは四十年前とそう変わらない

真ん中に
コンクリートの小山があるのさ

小学六年生のころ
BCLが流行っていたんだ
今ではBCLって何だって言われそうだけど
Broadcasting Listening または Listener の略で
ラジオ放送(なかでも短波による海外放送)を聴取し
受信報告書を書いて(エアメールで送り)
いろんな放送局のベリカードを集める趣味さ

あとから思い返せば
海外のニュース(宗教や人種問題、紛争
東西冷戦だの緊張緩和だの)よくわからなくても
洋楽や英語に目覚めるきっかけになった
小学生にしては高級な趣味だったね

午後八時にはじまるBBCの日本語放送
これが電波状況によって
なかなかきれいに聴くことが出来なかったんだ
季節は忘れたが
同じクラスの仲間五六人で集まったのさ
その小山に

ソニーのスカイセンサー5800が憧れで
僕は対抗しあえて
“ナショナル” パナソニックのクーガ115
でも当時最新機種の5900を買ってもらった奴がいて
たぶんそれも持ち寄ったんではなかったか

午後八時
小学生が外に出るには遅い時間だ
ダイヤル(もちろんアナログだ)を合わせる
ビッグ・ベンの鐘の音が公園に響く
BBC放送の始まりの合図だ
そう、遥かロンドンからの音!
僕らは狂喜乱舞し
そう、本当に踊ったのさ
輪になって
その小山で

その小山は改修され
つまり上からコンクリートが塗られ
少し大きくなったような気がする
洗練されてしまってはいるが
基本は変わらない
それが今でもそこにある

ただそれだけのことなんだけど……

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コメント

37年の時の段丘を、猫の道案内で軽々と越境する、夜の散歩。

時は休みなく堆積し続け、想いもまた重畳していく中で、何かに触れて言葉を失う瞬間がある・・・(胸が高鳴る場面がいくつも出てきて溜息が出ます)。

今朝、郵便局の入口を掃除してたら、ATMコーナーに若々しい黄緑色をしたカマキリが迷い込んでいた。突っついて外に出そうとするのだけど、顔をこちらに向け、手足をバタバタさせてなかなか外に出ようとしなかった。

投稿: のんかん | 2012年9月12日 (水) 23:09

詩なんだろうか。
偶発的にこんなスタイルが浮かんでしまった。
「僕の原体験」と総題して、
これから時たま書いていこうと思います。

投稿: 西を向く人 | 2012年9月13日 (木) 15:39

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