母が雪で転倒、骨折 ・ 西山 正義 ・ たまたま家にいたのである。玄関のドアが 強めにノックされた。何事かと、出ると、見 知らぬ女性が息を切らせながら、「……倒れ ています」と言って、道路の方を指さした。 ただならぬ気配に、そのままサンダルを突っ かけて女性のあとを追った。 家の前の道を東へ、一つ目の十字路を右に 曲がって程なく、母が尻もちをついて倒れて いた。氷の上に。前日は東京にしては大雪だ った。翌日は朝から晴れて道の中ほどの雪は 解けていたが、畑に沿った脇の方は凍ってい た。一目で、滑って転んだことがわかった。 平成二十八年一月十九日火曜日のことであ る。母は七十六歳。転んではいけないのであ る。偶然通りかかった介護老人ホームの車が リフトの座席を降ろして、引き上げようとし ていてくれたが、母は起き上がることができ ないでいた。頭は打っていないようである。 救急車を呼んだ。上着を着、靴を履き替え、 免許証や財布を持って、私も救急車に乗り込 んだ。通報してくれた女性は立ち去っていた。 老人ホームには二日後父と一緒に菓子折りを 持ってお礼に行った。 結果、左大腿骨頚部骨折であった。もちろ んそのまま入院で、手術の必要があった。し かし糖尿病などの持病があり、すぐには出来 なかった。そもそも眼科へ行こうとしていた のだ。眼科の診断書や持病の診察、経過を見 て、二月二日に人工骨頭挿入の手術を受ける。 高齢者の骨折は致命傷になる。入院は長く なった。同じ市内とはいえ、病院はバスを二 つ乗り継ぐ距離。父、私、妹、妻、子供たち が入れ替わりに見舞いに行った。車椅子生活 になるかと案じられた。幸い、リハビリ病院 への転院は必要なく、五十二日目に退院した。 五月には母一人で通院できるまでになった。
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第一稿:令和3年(2021)5月8日(土)7:30~11:00
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