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2021年5月 7日 (金)

短説「草原の輝き……」西山正義

   草原の輝き……
   
(――空白を埋めるための後付け短説)
            
西山 正義

 タイトルを忘れたが、BSテレビで西村京
太郎の十津川警部シリーズの再放送を観た。
TBS系の十津川警部=渡瀬恒彦、亀さん=
伊東四朗ではなく、テレビ朝日系の十津川=
高橋英樹、亀さん=愛川欽也の方だ。
 もちろんトラベル物なのだが、どこが舞台
だったかも忘れてしまった。ともかく、犯人
は十津川警部の大学ボート部の友人なのだが、
その友人が愛唱していたワーズワースの詩句
が最後に効果的に使われている。
 ぶっちゃけ、それに泣けてしまった。ドラ
マ自体は、しごく常套的なサスペンスで、二
時間枠のお決まりの作りなのだが、十津川が
最後に犯人の友人に向かって言うその詩句に
ぐっときてしまったのだ。
「草の輝くとき 花美しく咲くとき たとえ
それが還らずとも 嘆くなかれ」
 十九世紀イギリスのロマン派を代表する詩
人ウィリアム・ワーズワースの有名な詩の一
節だが、十津川警部とその大学時代の友人が
この詩を愛唱していたというのは、むしろ六
〇年代初頭アメリカの青春映画の秀作『草原
の輝き』の影響ではないだろうか。
 原題「Splendor in the Grass」はそも
そもワーズワーズのこの詩をモチーフにした
ウィリアム・インジの原作をエリア・カザン
が映画化したもの。一九六一年十一月封切り。
 この映画は、日本でも村上春樹をはじめあ
る世代の人には相当な影響を与えたようであ
る。またアメリカ人もこのイギリスの詩が好
きなようで、ロバート・レッドフォード監督
の「A river runs through it」(一九九
二)でも、父と子がこの詩を交互に朗読する。
「嘆くなかれ」と敢えて言っているのだがら、
やはり嘆かずにはいられないということだ。
草の輝くとき、それは二度と還らないのだ。

ブログ:平成23年(2011)9月7日(水)~22:37
短説化:令和3年(2021)5月7日(金)21:50~22:40

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