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2021年5月 2日 (日)

短説「“最後”の花見会」西山正義

   “最後”の花見会
   
(――空白を埋めるための後付け短説)
            
西山 正義

 文芸評論家で近代文学研究者の小川和佑先
生を囲んでのお花見会は、平成二十五年四月
六日に行われた。先生は「桜の文学」のいわ
ば伝道者としても知られていた。
 この年は開花が早く、ソメイヨシノはすで
に散っていた。そんなわけで場所を変えるべ
きかと直前になってすったもんだしたり、当
日も夕方から春の嵐に見舞われたりと、いろ
いろあったが、結果的には、当初予定の紀尾
井町通りの八重桜がちょうど見頃になってい
て、成功裡に散会することができた。
 十四年前の花見の時は新卒だったI君とK
嬢が立派な社会人(K嬢にいたっては大学の
先生!)になっていたり、卒業以来初めて実
に久しぶりに参加したW君にも会え、OBの
子供も三名参加し、ほんのひと時であったが
たいへん充実した花見会になった。
 ――しかし、これが先生と一緒に桜を見た
最後になったのだった。
 その日は、息子の大学入学式でもあった。
妻は日本武道館での式典を終えてランチから
合流し、息子は大学での事務手続きを経て二
次会から参加したのだった。息子は先生には
会えなかったが、入学したのは日本文学文化
学科なのである。
 私と一緒に待ち合わせの準備から参加して
いた娘は、大学四年になっていた。ヨーロッ
パ比較文化学科でジャン・コクトーを卒論に
選んでいたので、仏文学専攻の卒業生(とい
っても親と同じ年代)とまるで友達のように議
論していた。
 そしてその二日後、私もとうとう五十歳に
なった。小川和佑先生に出会ったのは昭和五
十八年四月、二十歳になったばかりだった。
あれから三十年。自分の子供が同じ年代にな
り、当時の先生の年齢に近づいたのである。

ブログ:平成25年(2013)4月8日(月)
小川ゼミ通信Vol.30:平成25年(2013)4月20日(土)
短説化:令和3年(2021)5月2日(日)~22:33

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